WEB小説で主人公が無双する物語を読むようになって、もう十年くらい経ったでしょうか(僕がWEB小説を読み始めたのが十年くらい前なので)。十年前は、こんなにも長期間に渡って、最強主人公の物語が人気を誇るとは思いもよりませんでした。
そういうのは確かに楽しいですが、個人的には読みすぎると飽きるという印象です。こんな感想を持つ読者様は案外多いのではないでしょうか。
もしこんなことを感じていらっしゃるなら、この奇特な触手の物語を一度読んでみてはいかがでしょうか。
主人公最強ド派手に暴れまわってざまぁすっきりチーレムウハウハな痛快物語ではありませんが、一風変わった物語を求める方にはとても面白いお話になっています。
主人公が触手になるなんてところも独特ですが、よく練られた設定や世界観があり、奥深い仕上がりになっています。
また、ファンタジーというとゴブリンだのオークだの、昔ながらのモンスターが登場することも多いですが、この物語ではもっと自由な発想で「モンスター」が登場します。(割りと後半ですが)
なんでもありなファンタジーだからこそ発揮できる、作者自身の個性を存分に生かした作品になっています。
一度読んでいただけたなら、類いまれで、珍妙で、面白おかしい、作者の想像力の虜になることもなきにしもあらずです。(断言はしていないので、そう思わなかったとしても僕を責めないでくださいm(_ _)m)
なにはともあれ、結局書きたいことはただ一言。
「面白いから読んでみて!」
人間ではなくモンスターが主人公になる作品は数多いが本作の主人公はその中でもかなり異例の触手!
村人のクリスはある日モンスター退治に駆り出され、哀れオークに殺されてしまう。これだけでも最悪なのにさらにオークの背中に生えている無数の触手の一本に転生してしまう。しかも一本一本の触手には意志があり、全員がクリス同様に元人間。
そんな触手仲間と触手ライフを送っていたクリスだが、ある日オークの身体から切り離され、そのままどんぶらこと川を流れて、行き着いた先は何やら訳ありなお嬢様を抱える貴族の家。かくしてお嬢様のペットとして彼の第二の触手生が始まる。
触手に転生するという設定はギャグっぽいし、本体から切り離されたクリスは自分一人ではろくに動けないナマコのような存在。こんなんで物語が成立するのかと思いきや、わりとシリアスな物語が展開されるから予想外に面白い。
人類に大きな災害をもたらす、まるで怪獣のような神が何柱も地上を跋扈していたり、何もできない軟弱な存在の主人公が思わぬ力を発揮したり、ヒロインのお嬢様を能力と存在を巡って複数の勢力の思惑が入り乱れたりと、タイトルからは想像できないぐらい重厚で非常に読み応えのある作品だ。
(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)