四肢切断アクセサリーでワンポイントな可愛さを

「自分が今回暴露する性癖は、『四肢切断アクセサリー』になる」

「うわ…」

「ムゥ…」

「あー…」


 狼型獣人が暴露した『四肢切断アクセサリー』という性癖に対して、三人の反応は生暖かい物でした。


「な、なんだよ、その反応は…」


 性癖暴露大会あるあるの待ちの態勢とも違う反応を受け、狼型獣人は不安の声を挙げます。

 それもそのはずでしょう。ここは国連のお膝元の性癖酒場で、その国連は『他人の性癖を笑っても馬鹿にはするな』というルールを推奨しているのです。

 この三人がそれを知らないはずは無く、寧ろどちらかというと笑われる側です。今さら他人の性癖を笑うような連中でも無ければ、そういう間柄でもありません。

 その為、狼型獣人は三人の微妙な反応を見て、何か自分が間違った事をしたのではないのかと不安になったのです。


「いーからいーから、ほらー、続けて?」


 しかし、狼型獣人の不安をよそに小人が性癖の説明を促しました。

 狼型獣人も性癖暴露を途中で止めるつもりは無いので、三人の反応を様子見しながらも性癖の説明に入ります。ちなみに、性癖暴露大会中に日和って性癖の暴露を途中で止めた者は周囲から『リンプーふにゃちん』と呼ばれる事になり、死ぬ迄そのあだ名で弄られ続けます。


「お、おう……じゃあ説明するぞ。まずは四肢切断アクセサリーがどんな物かって事なんだけど、これはずばり、四肢を切断して頭と胴体だけになった相手をアクセサリーとして身に着けるという物だ」


 狼型獣人は右の人差し指と中指を立てて、それを肩や足の付け根に順番に当てながら説明します。


「四肢切断系は肘や膝の関節部で切断するタイプの人も居るけれど、自分のは付け根で切断するタイプで、その断面に大型のヒートンを付けて紐を通せれる様にする」

「ヒートントハ?」


 聞きなれない単語だった為か、説明の途中でしたが虫人が疑問の声を挙げました。


「ヒートンって言うのは先が輪っかになっているネジの事で…ええと、そうだな、先端が尖ってないフックと思ってくれてもいい。そのフックが切断された四肢の先に外向きに付いている感じで、切断部はカバーで覆っていてもいいしそのままでもいい」

「くくり罠作る時に紐部分と輪っか部分と用意するでしょー? あれの輪っかの方って思えばいーよ」

「ナルホドナ。ダイタイ分カッタ」


 狼型獣人の説明ではまだ理解出来ていない様子だった虫人へ、小人が追加の説明を行いました。

 虫人達はアクセサリーを身に着ける事は稀で、おしゃれと言ったら体の一部を染めたり絵を描いたりする事なのでこういうのには疎いのです。


「まあ、とりあえず頭と胴体だけで腕や脚は無くて、紐で吊れる状態だと思ってくれればいい。体は動かせないけれど重要な器官は残っていて、他人に世話をして貰えば生きれるというのが重要だ。世話が必要だがペットよりも観葉植物に近い感じで、毎日丁寧に体を拭いてやったり飯を食べさせてやったり可愛い服を着せたりしてイスに座っていて貰うんだ。インテリアなら綺麗にするのは当たり前だし、壊れないように丁寧に扱う物だろ?」


 狼型獣人はにへへと口の端を上げながら喋ります。そうすると牙が剥き出しになるので恐ろしい印象を受けるかもしれませんが、目が完全にニヤついているので単に危ない人にしか見えません。

 三人はそのにやけた顔を見て若干呆れながらも、狼型獣人の説明の続きに耳を傾けます。


「ちなみに、排泄したくなったら勿論こっちがトイレまで持って連れて行く。ちゃんと下着も身に付けせているからそれを脱がして排泄させる。その時にちゃんと出来るか手伝ってあげる事もするし、終わったら綺麗に拭いてあげてからまた下着を付ける。自分で動けないんだからこれぐらいはやってあげて当然だよな?」


 狼型獣人はまるで自分の膝の上に対象が居るかのようにして下着を下げるジェスチャーをし、穴を広げる仕草をし、トイレットペーパーで拭いてから下着を上げるジェスチャーをしました。

 流石にこれは引きますね。手付きが慣れている様に見えるのが本当にどうかと思います。

 話を聞いている三人もその様子を見て、手で頭を抑えたり、携帯端末を弄ったりしています。


「それで、肝心のアクセサリー部分なんだけど…」

「あ〜、すまん。そろそろ可哀想だから教えてやろうぜ」

「ソウダナ」

「えー、もうちょっと待っても良かったのにー」

「え? どうした? これからアクセサリー部分の説明なんだけど…」


 狼型獣人がシークレット性癖である『四肢切断アクセサリー』の本題の説明に入ろうとした時、無個性人が止めに入り、虫人がそれに賛同し、小人はニコニコしながら携帯端末を操作して画面を狼型獣人へ向けました。


「これでしょー? 四肢切断アクセサリー」

「え? なんで???」


 小人が持っている携帯端末の画面に映っているのは、頭と胴体だけになったロボットの女性と、それをチェーンで繋いで自分の腹部にくっつく様にぶら下げている狼型獣人の画像でした。ちなみに股間部分はモザイクで隠されていますが、角度からして接続されている様です。


「は! はあぁ!!? おい、これ!! 盗撮じゃねえか!!!!」


 狼型獣人が小人から携帯端末を奪い取り、イスから立ち上がって叫びました。自分とパートナーの濃厚接続の様子が写っているのです。怒るのも仕方ない事でしょう。

 そして叫び声に反応して店内に居た人達が一斉に四人が座るテーブル席へと目を向けますが、大半の人は叫び声の主が狼型獣人だと分かると直ぐに視線を戻して自分達の会話を続けます。

 性癖酒場では唐突に叫び声を挙げる人は珍しく無いどころか日常性癖事ですが、今回はちょっと理由が違います。


「いやー、よく見てみなよ。これ、鏡に映ってるでしょー?」


 小人は携帯端末を奪われた事にも近くで叫ばれた事にも慌てず、冷静に画面に移っている画像について説明します。


「ほ、本当だ! って事は鏡の中に撮影機材が…」

「お前の彼女の自撮りだぞ」

「……は?」

「性癖日和トイウ題名デ公開サレテイル日記ノ画像ダ」

「………………は?」


 狼型獣人のパートナーである機械人の女性が、自分の性癖と性事情を画像付きでブログに挙げているのです。

 ブログ閲覧にはちゃんとそれぞれの種族の成人済みの証を提示する必要があり、自分の好みの性癖も添えないといけないという中々手の込んだ認証式のブログです。


「やっぱり知らないかー。『彼氏にはナイショでーす』って書いてあるもんねー」

「性癖ブログランキングの上位だろ? 広告代だけで結構貰ってんじゃないか」

「読者ガ道具ヲ送ル事モ結構アルナ。レポートガ細カクテ丁寧ダ」

「だから最近新しい道具が増えまくっていたのか……じゃなくて、なんだよそれ。聞いてないぞ」


 狼型獣人はイスに座り直し、小人に返した携帯端末を操作して貰って自分のパートナーの性癖ブログを閲覧します。

 一番最初の日付は数年前なので狼型獣人と付き合う前ですが、その時から『有機物の雄の複乳の乳首を吸いたい』という性癖を圧倒的な文章量と巧みな表現で現していて、大勢のファンを獲得していた様です。

 念願叶って狼型獣人と付き合い始めた日のブログは興奮で全てが高度な暗号化された文章でとても卑猥に書かれていて、今でも性癖ブログ界隈では伝説の回として語り継がれています。


「という事でー、『四肢切断アクセサリー』はシークレットでもなんでも無くてー、みんな既に知ってましたー」

「このまま繋がって部屋の中を歩いたり、こっそり深夜に肩掛け鞄みたいにして歩いたりするんだろ? 物として扱うのがお互いに興奮するんだってな?」

「動画配信サレテイル時モアッタゾ。オ前ガ我慢出来ナクナッテ公園ノ遊具ニブラ下ゲテ犯シテイル時ノモナ」

「勘弁してくれ……」


 自分の情事が世の中に配信されている事を知り、狼型獣人は器用に左手で目、右手で耳を抑えてテーブルに突っ伏し、蚊の鳴くような声でそう言いました。

 余程ダメージが大きいのでしょう。性癖ノートに自信満々に大きく自分のシークレット性癖を書いていたのですが、今は何も見たくない、何も聞きたくないという状態です。何せ、他の客から『あいつが例の…』とか『羨ましい…俺も複乳吸いたい……』とか『やっぱ団長はすげぇや』等の声が聞こえてくるのです。


「最近周りからヒソヒソされるなとは感じていたけど、ディスカッションの時の効果だと思ってた……」

「俺は逆に知っていて彼女にしたのかと思ってたぜ」

「あんまり電子網に詳しくないって言ってたしー、仕方無いんじゃなーい?」

「軟弱者メ。寧ロ強カナ雌ダト誇リニ思ウベキダ」


 虫人は机に伏している狼型獣人を情けないと言いながら性癖ノートを手に取り、自分の性癖を書き記します。


「次ハ我ガ暴露シヨウ。我ノシークレット性癖ハ『恋人が好きすぎて恋人以外全て敵と思っちゃうお茶目な娘』ダ』

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