「のうかん」って書くとポップでキュートだよね
「俺の暴露する性癖は、『脳姦』だ」
「おぉ…」
「ホゥ…」
「へー…」
無個性人が暴露した『脳姦』という性癖に対して、残りの三人の反応は静かな物でした。
これは反応に困っているという訳ではなく、まだその性癖について何か言うタイミングではない、詳しく聞く前に判断するのは早計だという、性癖暴露大会でしばしばある待ちの態勢です。
性癖は単語一つだけでは内封するシチュエーションが多く、例えば『巨乳』という性癖一つとっても生活に支障の無い範囲なのか体よりも大きいサイズなのか、はたまた肉体との比率は普通でも巨人族の物なのかと感じる部分が大きく違うのです。
その為、この様に単に『脳姦』と言われた状態ではどちら側か分からないという事で三人は待ちに入ったのです。もしかしたら傍観者側かもしれませんしね。
無個性人はそんな待ちに入った三人を流石は歴戦の勇士達といった様子で見ると、続けて補足の説明を始めます。
「それも挿入する側の方な。頭に穴を空けて挿入するタイプよりも頭を開いて脳を外に晒すタイプだ。そこから対象の意識を残しつつ真ん中の溝で脳ズリしたり、鏡を使って自分の脳が壊される様子を見せつけながら無理やり挿し込んだりしたい」
無個性人は食べ終わった串焼きの串の先端をポテトサラダ用の芋(蒸かした芋とマヨネーズが別に提供されて自分で混ぜるタイプ)の上部に沿わせてマヨネーズを塗りつける様に前後させたり、串の先端を舐めてから芋の真横に突き刺してぐるんと回転させたりしつつ説明します。
「でだ、どうして脳姦が良いかと言うと、脳が軟らかくて反発力がある上にしっとりしていて陰茎を這わせると気持ち良いというのも重要だが、脳が意識を司っている臓器というのが一番のポイントになる」
無個性人は神妙な面持ちで芋に差し込んでいた串を引き抜き、今度は串で芋の端を切り取りました。
「脳ってのは結構特殊でな、手足や内臓と違って損傷部位を再生させても損傷前に得た情報は再生されないんだ。そこだけ真っ新な状態で再生されるから記憶なり経験なりは失ってしまう。随分前に脳を全損の状態から再生させる実験があったんだが、脳は新品なのに肉体は成長しているから色んな部分で不具合が起きてな。結局は脳が肉体の管理をしきれずに臓器不全になって駄目になっちまった」
そして芋の切り取った部分に軟骨の唐揚げを押し付けて串で刺して固定し、それを手で摘んで三人に良く見える様に目線の高さまで持ち上げます。
芋に刺さった軟骨の唐揚げはシルエットだけ見るのなら芋の弧の延長線に見えない事も無いですが、完全に芋とは違う異物です。切り取られた芋に軟骨の唐揚げをくっつけても切り取られる前には戻らないのです。
「という事はだ、脳ってのはその人がその人である証みたいな物で、脳に蓄積されている情報こそが人間を作っているんじゃないのかって俺は思っている。ここんとこは法律やら宗教やらで解釈は違うだろうが、少なくとも俺の考えとしてはだ」
ここまで話すと無個性人は一旦説明を止め、芋を皿の上に戻してお酒を飲み始めます。
説明で喉が渇いたのでしょうか、ジョッキにはそこそこの量が残っていたのですが全て飲み干す勢いです。
「なるほど、腐っても天才外科医って事か」
「腐ッテイルトイウヨリハ狂ッテイルガ正シイノデハナイカ?」
「その実験ってかなりの禁忌だと思うんだけどさー、言って大丈夫なのー?」
脳についての説明を聞き、獣人は感心し、虫人は呆れ、小人はわざとらしい笑顔で声をかけます。
「お前らが口外しなけりゃ問題ないだろ? それより腐っているってなんだよお前」
「腐っているより狂っているのほうが悪口じゃないのか?」
「狂ッテイルノハ認メテイルトイウ事ダロウ」
「まー、
「は? お前らも人の事言えねぇだろ。続けるから黙って聞いてろよ」
無個性人は三人の軽口に声を荒げますが、本当に怒っているわけではありません。狂っているのも腐っているのも自覚していますし、何よりこうやって屈託無く性癖について話せる仲間というのがかけがえのない相手だからです。
「つまり、脳姦ってのはそいつ自信の人格や歴史なんかの全てを犯す行為であって、尚且つそれを破壊する行為であると俺は認識している。想像してみろよ、今まで自分が作り上げてきた『自分』という物を性的に消費され、破壊される奴の顔を。思い出も、感情も、体を動かす事さえも、全部全部汚らしい肉棒で犯されるんだ。とってもそそる顔をすると思わねえか? 俺は想像しただけで興奮する」
先ほどの軟骨の唐揚げをくっつけた芋をスプーンでぐちゃぐちゃに潰してかき混ぜながら、無個性人は段々と声を荒げて笑顔で物騒な事を語ります。説明しながらヒートアップしてきたのでしょうか。でも大丈夫です。ここは性癖酒場で今はシークレット性癖暴露大会中です。咎める者は誰も居ません。
「それに生きたまま脳を破壊されるとどうなるか知ってるか? 部位にもよるんだが直ぐに死ぬことは無く、強烈な吐き気と不快感を感じて体が痙攣を始めるが意識はちゃんとあるんだ。しかも耳や目は動いていて脳にも多少の触覚はあるから、自分の脳の中に射精されている様子が分かる。人体ってすごいだろ? 自分自身が詰まっている脳に精子を出される様子が分かるんだぜ? 自分という存在が精子に犯されているのを感じれらるんだぜ?。突っ込んでる側の征服感半端ないだろ? 単純に命を奪うだけじゃない。そいつの全てを性欲で奪うんだ」
妖艶な笑顔で芋を潰して混ぜながら喋り続ける無個性人の女性。
その姿はまともな人が見たら気が狂っているのではないかと思う様子ですが、性癖酒場ではこんなのは日常茶飯事です。いえ、日常性癖事とでも言うべきでしょうか。
「という事で、俺のシークレット性癖は『脳姦』だ。正確には『人を人たらしめる脳を犯す事で征服感を得る』って所だろうが、一言で言うなら『脳姦』だな」
先程までの妖しい雰囲気は何処へ行ったのか、無個性人は スッ と元の陽気な雰囲気に戻り、軟骨の唐揚げ入りのポテトサラダを美味しそうに口へ運びました。
三人はその変わり様を見ても特に驚いた様子は見せず、『脳姦』という性癖を取り入れるか置いておくかの吟味をしています。
無理に新しい性癖として取り入れる必要は無いのですが、どうせなら性癖を増やした方が生活に潤いが出るという物です。
「支配ノ延長線ノ一ツダト思エバ分カル性癖ダナ」
他の二人がまだ吟味を続けている中、虫人が性癖消化をし終わったようです。
虫人の社会は独特の生態系を持つので他種族との交流が少ないのですが、彼は虫人の中でもかなりの変わり者で積極的に他種族と交流を行っており、特殊な性癖の持ち主によくある懐の広さも持ち合わせています。
その為、こうした性癖暴露大会で暴露された性癖を消化する事が多いのです。
「そもそも他者を伴った性欲の発散自体が支配の一つなんだが、相手の生死を握っている状況は特に支配欲が満たせるからな。生死を握って精子をぶち撒くわけだ」
「うっわー、下品ー」
「よくこんな奴と結婚する男が居たもんだよな」
「はい、お前それセクハラね。罰則として次の語り手はお前だ」
「はぁ!?
「コンナノデモ一応ハ雌ダ」
「いやー、人妻なのに全くそそられない人妻だけどねー」
「旦那が貰ってくれたからいいんだよ。それよか早よ、次!」
「は? きったねぇ?そいつらもセクハラだろ?」
四人とも既に出来上がっているのでセクハラ云々は本気ではなくじゃれあっているだけですが、国によってはセクハラ以上に
「しょうがねえな、じゃあ次は自分が暴露するか」
狼型獣人はそう言うと無個性人から性癖ノートを受け取り、自分が暴露する性癖を書き込みながら続けました。
「自分が今回暴露する性癖は、『四肢切断アクセサリー』になる」
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