操縦士の会話
「あら? もしかして聞こえていました?」
突然聞こえてきた女性の声に、ピオンが上半身が人で下半身が車両の巨像を見上げて言うと、巨像は女性の声で返事をする。
『ええ、はっきりとね。貴女達地上人がゴーレムトルーパーとかいう古代の兵器を自慢しているのは知っているけど、この「チャリオッツ」がゴーレムトルーパーより弱いと思わないでよね』
女性の言葉で話す鋼鉄の巨像、チャリオッツは左手を自分の胸部装甲に当ててピオンを見下ろし、これに対して他の三体のチャリオッツは動きを止めて戸惑ったようにピオンを見下ろすチャリオッツを見ていた。中にはまるで止めようとするかのように手を伸ばすチャリオッツもいるのだが、ピオンを見下ろしているチャリオッツはそれに気づかないまま話を続ける。
『資料で知ったけど、貴女達地上人は時代遅れの武器や兵器しか持っていなくて、ゴーレムトルーパーの武装もそれを大きくしただけのものなんでしょ? そんな武装しか持っていないゴーレムトルーパーや、それに倒されるモンスターなんてこのチャリオッツの敵じゃ……』
そこまで言ったところで突然チャリオッツから聞こえてきていた女性の声が途切れた。何事かとサイ達がチャリオッツを見上げると、先程まで女性の声で話していたチャリオッツは味方のチャリオッツを見ながら慌てたように身体を揺らしていた。
「一体何をしているんだ?」
「恐らくですけど、仲間のチャリオッツが外部音声のシステムを止めて、現在お説教中といったところなのでしょうね」
チャリオッツを見上げながらサイが呟くと、同じくチャリオッツを見上げているピオンが答える。確かに彼女が言う通り、交渉相手のシェーヴィル同盟の文官ではないとは言え、交渉の場で先程のような挑発的な発言をすれば周りが止めて叱責するだろう。
「それにしても向こうは随分と自分の力に自信があるようですね?」
チャリオッツを見上げるピオンはそう言うと口元に笑みを浮かべたが、その目は笑っておらず冷たい視線を鋼鉄の巨像に向けていた。
『サラ! 貴女は一体何を考えているの!?』
チャリオッツの人型の上半身の胸部には人一人が入れるチャリオッツの操縦室があり、操縦室の中では女性の怒声が響いていた。女性の怒声は操縦室に備え付けられている通信機から聞こえてきており、その通信機に向かってサラと呼ばれたチャリオッツの操縦士が話しかける。
「お、お姉ちゃん。そんなに怒らないでよ……」
チャリオッツの操縦士、サラはまだ二十代にもなっていない若い女性で、金色の髪を切り揃えた人懐っこそうな顔立ちをした美女なのだが、現在の彼女は表情を強張らせおり愛想笑いを浮かべながら通信機を見ていた。
『ここでは隊長と呼びなさい。私達の任務はこの場で軍事演習を行うことだけで、地上人との会話は許可されていないのよ。それなのに貴女は勝手に話をしたどころか挑発までして……!』
サラが通信機で話している相手は彼女の姉であり、四体のチャリオッツの部隊の隊長であった。通信機から聞こえてくる姉の声がまた怒りだしたことを感じたサラは慌てて通信機に話しかける。
「で、でもお姉ちゃん……じゃなくて隊長? この軍事演習って地上人に私達の力を見せつけて交渉を有利に進めるためのものでしょう? だったら少しでも強く見せた方がいいじゃない。実際にあの小さな子って明らかに私達のことを疑わしそうに見ていたし?」
サラが言う小さな子とはピオンのことで、彼女の言葉にも一理あると考えたサラの姉はひとまず怒りを収めてサラに話しかける。
『はぁ……。とにかく貴女はこれ以上話さないこと。任務の軍事演習にのみ集中しなさい』
「は~い。分かりました」
サラは姉の言葉に返事をして通信を終えると、外の景色を映しているモニターに視線を向けて、先程まで話しかけていた赤紫色の髪をした小柄の女性、ピオンを睨み付けた。
「貴女のせいでとんだとばっちりじゃない。見てなさいよ。私達の力、これから嫌ってほど教えて上げるから」
モニターに映るピオンを見ながらそう呟くサラは、自分達の力がゴーレムトルーパーやモンスターに劣るとは欠片も思っていなかった。
英雄機ドランノーガ 小狗丸 @0191
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