第6話 アラン・ムーン

「カンタンヨ」

 ボードゲーム?この子はいきなり何を言い出すんだ?それに、ボードゲームって一体どういうゲームだ?人生ゲーム?

「うーん、今あなた人生ゲームあたりを思い浮かべたでしょう?まあまあ当たリ。

 アラン・ムーン曰く、“ゲームをするということは、サイコロをふってコースに沿ってコマを動かすというようなことではない。インターラクション、決断、そして社会スキルに関することなのである”

 ボードはこの部屋。コマはこの部屋のもの全部。そしてプレイヤーはあなたとわたし。ここまではいイ?」

 よくわからなかったが、ゲームをするということなのだろうか?

「これは正体隠匿ゲームヨ。でもちょっと違うのは誰かを当てるのではなく、何かを当てることなの。つまり、このゲームでは、あなたがわたしが何者か当てると勝利できるというわケ。サイコロとなる質問はそうね、3回まで。直接聞くのでなければ、大抵のことなら答えるワ」

 美幼女はうんしょと楽な、寛ぐ姿勢になって、準備を整えたようだ。

「時間は特に設けないわ。それだけはたっぷりあるもの。あっ、これはサービスネ」

 どういうことだろう?意味を図りかねた。

 程よい心地よさが部屋を占めている。

 ここでは時間がゆっくり流れている奇妙な感じに囚われる。

 落ち着いてきたところで、今一度部屋を見渡す。

 この子は障がい者だ。それは間違いない。

 それが答えか?簡単すぎる。

 問いとゲームの真意が分かりかねる。

 鏡の国のアリス?

 そんな感覚だ。

 直接聞くな、とはそのものズバリを言ってはいけないのだろうか。それは、あくまでもヒントだから?

 ついでに正解でもいいじゃないか。

 !!

 ハッカー幼女!

 この場にいながらあらゆるところに忍び込み、情報を覗き見してる、スーパーお子様が彼女の正体だ!

 …どこにパソコンがある。

 まさか、仕舞い込まれているとか?

 それはフェアじゃない。

 …いや、聞いてみるか。

「…ひとつ目の質問。仕舞い込まれているものがあるとしたら、なんですか?」

 きょとん、とした表情で

「ああ、そうね、タンスに引き出しに服やら雑多なものがたくさん。エアコンに冷蔵庫とか…でも、そういうことじゃないのね?」

「わざと隠しているものがあるか」

 ふふんとした顔で、

「そんなものなどないわ。…あっ、あえて言えバ」

 ?

「ベットの下をご覧なさいナ」

 屈んで覗く。

 箱がたくさん。どれも玩具箱みたいだ。

「ボードゲームよ」

 !これが。

 多種多様、大小さまざまの、面白そうなイラスト、デザインの主に紙箱がちょうどよくにおさまっていた。人生ゲームもあった。

 中になにが入っているんだろう。

 ワクワクが、綺羅星みたいに詰め込まれているようで、知らず高揚していたようだ。

 ひとつめの質問では大したことはわからなかった。

 それでも嬉しく思ったのは。

 この子はたぶん悪い子ではない。

 大切に扱われ、大事そうに仕舞われてある。丁寧な古びかたが、予感を呼び込もうとしている。

 才気のほとばしりにちょこんと触れて、不意にかき乱す音で我に帰った。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

古きは響く、 水;雨 @Zyxt

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ