第5話 「ボードゲームしましょウ」
知りうる限りの色で埋め尽くされた折り鶴がゆらゆらゆらりぷかぷかと、ほとんど止まっているよう見える川面を下り、岸からのびた、朱で染められ尽くした、和傘の挿した物見台から眺め見るのはささめきごとにて、やんごとなし。
ぽちゃんと、放り込まれり。
乱れるさまはまさに擾乱。
甘つゆの如くにて、痺れゆく。
世はしずしずと回り過ぎ。
格式は残りけり。
隠されし、浮かぶものは死
幼女のイメージは無邪気無縫に遊んで、ときに残酷。
「起きてください」
つくられた女性の機械音。
クラシカルでアコーステックなエレクトリックが低奏に、
朝の森を思わせるクリアでウッディなアロマが匂い出す。
ふたり、ほぼ同時に目を覚ます。
ふぁああ、と軽く伸びをし。
女は、隣の違和にすぐ気がついた。
ベッドだ。
自分はシャツに下着姿。
そして、手足のない幼女といっていい少女がごろりとーーー
幼女は寝ぼけまなこでニコリ。
「うぁぁあああ!」
ベッドから転げ落ちそうになるなるのを堪え、叫ぶので心の平静を保とうとする。
「きぃずつくなァ」
トロンとした口調で、ぶー垂れる幼女。
よっこいせと、横転をし、
「着替え、手伝っテ」
酷く恥ずかしかった。
裸の女の子、しかも美幼女ときた。
うふふフ、どうしたノと美幼女はごく自然に、あっけらかんとしている。
だって!だって!おれはーーー
おんなのからだ。
胸はそこそこある。ちょっとやせぎすではあるけど、しなやかなライン。肌はすべすべ、しっとりもっちり。あるべきところになく、あるものがあり、いつもとは違う感覚に晒される。
「早くゥ、早くゥ」
幼女は身体をバタバタさせる。
可愛く思ってしまった。
「え?え?」
余計戸惑う。
「すぐそばのサイドテーブルに一式置いてあるワ。すぐにかかっテ。やさしく、ていねいに、ネ」
軽いあくびをしながら言うことはしっかり言ってくる。
言い返せず女は従う。
「ちょ!違うわ、そこハ。それは男物の着方ヨ。何、あなた、まるで着たことがないようなしどろもどろっぷりネ」
さんざんキツいお言葉を頂戴しつつ、やっとわがまま姫の着衣を済ませた。
出来栄えを確認しつつ、幼女は「記憶喪失かしらねエ」と一人言っている。
ここは、見るに裕福な家の部屋だ。
けれども、おやっと疑問になったのは、女の子、それも幼い子の部屋にしては場違いなものがゴロゴロしている。
上品なお嬢様趣味の、これは介護ベッド?と言うのだろうか、普通のとは違うのが部屋のモノの一番の主人なのはいいとして、それからが…
まずはアロマディフューザー。これは以前どこかで見た覚えがある。電源で加湿とアロマキャンドル的役割を果たす。次にぽつねんと円筒形のスピーカーひとつ。なんだっけ…そうだ!スマートスピーカーとか言うんだっけ。詳しくはわからないが、喋るスピーカー、だったはずだ。それにシンプルなデザインの調度がベッドを起点にほぼ扇状に置いてある。そのひとつの上に真っ黒なドローン。大きめで、カメラもついていて高価なやつだ。大型のサイドテーブルは、こまごまとしていて、チューブのついた水入れ、ティッシュ各種、未来的なフォルムのメガネが、ベッド側のバッテリーボックスにつながった形でクロスの上に大事そうに置かれてある。残りは乱雑に。そして、
可愛さや美しさを誇るものが微塵も置いてない。
植物はある。アロマディフューザーの上部のケース内に、申し訳程度にあるぐらいにおさまっている。
部屋の隅に、埃をかぶった本棚がひっそりとあるのも気にかかった。背表紙から難解そうなのが並んでいて、この子には相応しくないというか、ちぐはぐな印象を受けてしまう。そこだけ時間が止まってしまったようで、そのまま彼方へ取り残されている感じだ。
確認できたのはそれぐらいだが、なかなかに秘密の多そうなミステリアスな部屋だ。
美幼女はふんふんふーんとご機嫌に値踏みでもするかのようにおれを見ると、
にこり。
「ボードゲームしましょウ」
そう言い放って来た。
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