やっぱり怒りは悪い感情!! 粉砕する!!💢

ちびまるフォイ

大きなことに目をつむり、小さなことに牙をむく

「だから! 納得できる理由を説明してくださいよ!」


「さっきから言っているだろう! お偉方の決定だ!」


「それじゃ説明になっていません!」

「納得できないなら辞めたまえ!」


「ええそうさせてもらいますよ!!

 なにも考えないロボットにはなりたくないんでね!!!」


と、売り言葉に買い言葉で職を失ったのは数ヶ月前。

今思えば「なんであんなことで」という理由でキレてしまった。


「はあ……どうしよう」


昔からよくイライラしてしまうのは自分の悪い癖だった。

次の就職先は辺境の地にある場所だった。


街に入ろうとすると検問に引っかかった。


「あ、待ってください。街外の人ですか?」


「え? あ、はい」


「でしたらこれを頭につけてください」


渡されたのは西遊記の孫悟空がつけそうな頭の輪っか。


「あの、これなかなか恥ずかしいですね……なんなんです?」


「この街は怒り発電エネルギーを使っているんですよ。

 あなたが怒るとその輪っかが怒りを発電所に送ってくれる。

 クリーンでハートフルな発電なんですよ」


「はあ……」


「これができてから、街の犯罪件数もぐっと減りましたしね。

 いやはや。怒りがないことでいいことづくめですよ」


最初は街の外から来たよそ者を辱めてやろうかという新手の嫌がらせかと思ったが

街の中に入ってみるとスマホ所持している人よりも、孫悟空が多い。

三蔵法師が引くレベル。


「さて……まずは何かお腹にいれようかな」


小さなことでイライラしやすい自分の対策としては

「空腹を作らないこと」が自分なりに見つけた処方せんだった。

お腹が減るとイライラ沸点がますます下がる。


「いらっしゃい。食券を買ってね」


ラーメン屋さんに入ると食券の券売機前に二人のお客さん。


「どうしようかな。しょうゆがいいかな」

「えーー私、しおがいい」

「間をとってみそは?」

「間になってないじゃ~~ん笑」

「あえてとんこつという選択肢も」

「逆に食べないのは?」


(は や く し ろ よ)


自分がモテないということも手伝い、イラァと頭に黒い感情が広がる。

一瞬だけ怒りを感じたがどこかに吸われるようにして怒りは消えてしまう。


(幸せそうなカップルじゃないか)


男は後ろに立つ俺に気づくと軽く頭を下げて、


「あ、すみません。先どうぞ」


「いえいえ、ゆっくり決めてください。別に急いでいないんで」


と、紳士の社交場のような柔らかなやり取りが行われた。


もしあのとき怒っていたらお互いに嫌な気持ちになったし

他のお客さんにも迷惑がかかって、気まずさでこの店で食べることもできなかっただろう。


「すごい……本当に怒りがなくなるんだな」


街に来てからというものトラブルらしいトラブルはなかった。

車のクラクションも聞いたことがない。


ここはきっとどこよりも平和で優しい街なんだ。


店を出ると、歩道を横一列でゆっくり歩く人に出会った。

抜くに抜けないもどかしさにイラッと感じるやすぐに回収される。


「こんなことで怒ることないじゃないか」


家につくと、早くトイレに行きたいのにかばんに入っていたはずの鍵が消える。


「ああもう、急いでいるのに! なんで鍵ってやつはこういつも消えるんだ!!」


怒ったとたんに回収されて落ち着きを取り戻す。

落ち着くとかばんではなく早く取り出そうとポケットに入れてたことに気づいた。

視野を狭くさせていた怒りはやはり不要だ。


紛失するリモコン。

なぜか絡まるイヤホンのコード。

一発でささらないUSB。

やたらに挿入されるCM。

モテない自分。

応援している野球チームの敗北。


えとせとら。

えとせとら。

えとせとら。


あらゆる怒りの感情は回収されて、

ゲームのコントローラがぶっ壊れることも壁に穴が空くこともなくなった。


すぐに怒ってしまう自分に自己嫌悪することもなくなった。

前よりもずっと自分を好きになれるし、穏やかな日常が本当に尊い。


「こっちに来て本当に良かったな」


今ではもう寝るときにすら輪っかを外すことができなくなった。


そんなある日、ふと迷い込んだ小道に学生の集団がいた。


「お前とろいんだよ」

「そういうやつには罰だ」


体を丸めて地面にうずくまる1人に対して、集団が蹴りを入れていた。

そのことを認識するや体が勝手に動いた。


「おい!! 何してるんだ!!!」


いじめっ子たちは一瞬ぎょっとしたが、うずくまっていた1人が弁解した。


「怒らないでください……僕がトロいのがいけないんです……」


「そういうことじゃないだろう!!! なに納得しているんだ!!」


「そうだぜおっさん。なに他人のことで勝手にキレてるんだよ」

「あんたには関係のないことだろう? こっちの事情もよく知らないくせに」


頭に浮かぶ怒りはあっという間に回収されて

「そうかもしれない」「放っておけばいい」と一瞬はちらつく。


それでも、回収されたそばから怒りが湧き上がってくる。


「事情なんて知るもんか!! お前らが集団でいじめてたのだけわかれば十分だ!!」


「おいこいつやべぇって……」

「めっちゃ怒ってるじゃん……」


普段から見慣れない「怒り」をあらわにした俺に気圧されるいじめっ子。

すると、どこからかパトカーのサイレンの音が近づいてきた。


「怒りんぼ警察だ! 通報があったが何事だ!」


「この人が怒っているんです!」


いじめっ子が指差したのは俺だった。

警察ならこのいじめを収集してくれると思っていた。


「君ね、いいオトナなんだから子供のケンカに口を出すことないじゃないか」


まさかの言葉に俺の堪忍袋が弾け飛んだ。


「この子が! いじめられてるんですよ!! 見過ごせって言うんですか!!!」


「そうは言っていない。ただ怒っても何も解決しないじゃないか」


「怒らずになあなあで済ませようとしているあんたにも怒ってるんですよ!!」


「君、怒り受容器はつけているじゃないか。なのになんで……」


「回収されるそばからブチギレてるからに決まってるでしょ!

 いじめられている子がいて、助けを求めることもできなくて、

 あげくに警察は変になだめようとしてくるなんておかしい!!」


自分がモンスターペアレントぽくなっているのは自覚していた。

それでも我慢はできなかった。


「あんたらは怒らないことで自分が高尚な人間だと思っているのか!

 悪いことにすら怒れなくなっているなんて、人間以下じゃないか!!」


この言葉にえびす顔だった警察もついに受容器で回収が間に合わないほどカチンと来たようだ。


「君に我々の何がわかるっていうんだ!!!」


「目の前の人を助けられないうんこ警察のことなんてわかってたまるか!!」


「何だとこの野郎!!」

「やるかこのーー!!」


今にも河川敷で殴り合って「お前やるじゃん」と夕日をバックに握手をしそうな一触即発。

それを見ていたいじめっ子達はガチギレする大人たちを見て毒気を抜かれていた。


「なんか……ごめんな」

「ああ、うん……」


大人同士が大揉めして警察沙汰という共通の敵というかトラブルを前にして、

これまで保っていた「いじめっ子」と「いじめられ役」の縮図は壊れてしまった。

残ったのはただの仲良しの友達関係だけ。


「あの……もう怒らないでください。俺たちもういじめしないんで……」

「もともとは仲良しだったんです。だからもういいじゃないですか……」


子供がまさかの仲裁に入ったことで猛烈な気恥ずかしさが湧いてきた。


「あ、ホント? なんかおじさんもヒートアップしてごめんね、ははは……」


すでに怒りは回収され尽くし、怒る理由もなくなった。

すべて万事解決し世界は平和と優しさに包まれた。


すると、怒りんぼ警察に無線が入った。


『大変だ! つい先ほど、貯蔵量を超える怒りを回収してしまったために

 怒り貯蔵機が爆発して怒りパンデミックが起きている! 至急応援を……早くよこせオラァ!!!』


無線を聞いた警察官と俺はお互いに顔を見合わせた。


「「 まあ、いいか 」」


不思議と怒りは湧いてこなかった。

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