異世界転生して○○○○と戦う羽目になりました
@HasumiChouji
異世界転生して○○○○と戦う羽目になりました
「ねぇ、どうしても、殺し合わないといけないの?」
そいつは、気の弱そうな口調でそう言った。
そう言えば、この世界に「転生」する前の俺は、あんなしゃべり方だった。
「あのさぁ……マジな話、『最後の1人』になったら、魔王だか勇者だかに成れるとか、元の世界に戻って生き返る事が出来るなんて、何の根拠が有るの?」
「お前、今更、何言ってんだ? その話がデマでも、信じちまったヤツの方が多数派になった以上……それが『ゲームのルール』に成ちまったんだよ」
「そっか……じゃあ、ボクも自分の身を守らせてもらうよ……。ザレイ・マカザレイ・ウキ・モキ・アレイ……」
ヤツは呪文を唱え始める。
「なに、チンタラ、呪文なんて唱えてんだよッ‼」
俺は、ヤツに飛びかかり、ヌンチャクでヤツの頭を狙う。多分、一撃でヤツの頭は砕けるだろう。
だが、俺のヌンチャクは虚しく何も無い空間を通り過ぎた。
ヤツが呪文を唱え終るのが、一瞬だけ早かったようだ。
「アニ・マニ・マニ・マレイ・シレイ……」
ヤツは瞬間移動の魔法で、俺と距離を取った。多分、走ってヤツの所に行き着く頃には、ヤツはかなり強力な攻撃呪文を唱え終ってるだろう。
ヤツは「魔法の杖」の先端を俺に向ける。そこには電光が現われ、呪文と共に段々、輝きを増していく。
そして、轟音が響く。何かが燃える時の匂い。たなびく煙。
「だから……チンタラ、呪文なんて唱えてんじゃねぇよ」
「な……なんで……ファンタジー世界に……拳銃が有るの?」
それが、ヤツの最後の言葉になった。
「知るか」
俺は、崩れ落ちたヤツに近付き、止めのヘッドショット。
ヤツの体と衣服が消え、「魂の結晶」である宝石と、ヤツの装備品だった魔法の杖が残る。
俺の性に合わない能力だが、これで、奴の力を……。
だが次の瞬間、コボルトだか、小型のゴブリンだか……ともかく、突然現われた人間の半分以下の身長の亜人が、「魂の結晶」と魔法の杖を奪った。
「いやぁ、助かったよ、『俺』。その『俺』と、俺の能力は相性が悪くてさぁ……」
声の主は、また別の「俺」だった。そして……虚ろな目をした何十人もの亜人や……この世界の一般人達。
「そうか……テメェの能力は……」
「見ての通り。『精神支配』の超能力だ。それも、強いヤツ1人を支配するのには向かないけど、弱いのを何十人も支配する事なら出来るタイプのね」
なるほど、なら、さっき死んだ「俺」の「能力」……「弱いヤツを一度に大量に殺せる魔法」とは相性が悪い。
「ところでよぉ……俺って、そんな気障なしゃべり方だったっけ?」
「俺って、そんなチンピラみたいなしゃべり方がイケてると思ってたっけ?」
俺は、「俺」を銃で撃つ。しかし、「俺」が支配している人間の1人が「肉の盾」になって「俺」を守った。
「どうやら、てめぇが引き継いだのは……元の『俺』の下衆な部分か」
「かもね……。もしくは、元の『俺』の『良心』や『優しさ』を受け継ぎ損ねたか」
ヤツの支配下にある人間や亜人が、次々と俺に向って来る。生きている筈なのに、まるで、ゾンビ映画だ。どうやら、「俺」の兵隊は、精神支配された事で苦痛を感じなくなったようだ。つまり、1人を無力化するまでに、何発もの弾が必要になる、って事だ。
「そろそろ弾切れかな?」
「うるせぇッ‼」
俺は、一番近くに居た「俺」の兵隊に蹴りを入れる。
「ごへぇっ………‼」
蹴りを通して、「気」を叩き込まれた、その「兵隊」はゲロを吐きながら倒れた。苦痛を感じないヤツでも、神経そのものを麻痺させれば無力化は出来る。
「なるほど……銃は、また別の『俺』から奪ったモノで……それが……『気功拳法』があんたの本来の能力か……」
「そう云うこった」
「でも、先に銃を使ったって事は……直接、相手に触れないと『気』を叩き込めないようだな……。俺の手下が全滅するまで、あんたの『気』が持つか、見物させてもらうよ」
「ふざけんな……」
「あと、今のあんたを『精神支配』するのは無理だが……弱ったあんたを支配出来るか試してみるのも面白いかもな」
「だまれぇッ‼」
俺が学校に行く途中にトラックに轢かれて死んで、異世界に転生して数週間。
何かのアクシデントのせいなのか、「異世界転生」ってのは元々そう云うモノなのかは知ったこっちゃねぇが、どうやら、俺の魂はバラバラになって、この「異世界」で複数の「俺」が生まれてしまったらしい。
そして……その複数の「俺」達の間で……「最後の1人」「本当の俺」になる為の殺し合いが続いていた。
異世界転生して○○○○と戦う羽目になりました @HasumiChouji
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