21 そして、動き出す
「悠希さんを見つけたんですか!?」
すみちゃんの言葉に私はうん、と頷く。
今日の昼休み。
誰もいないで二人でお話しする。
まだ先輩たちはあの報道でショックを受けているから、これも言うと余計混乱しちゃうかなって。
すみちゃんはファンだけど、相手が陸先輩だってわかっているし、そんなにショックは受けていないんじゃないかなって。
これから真希ちゃんの仕事がどうなるかは心配だけど……。
すみちゃんは、あっと納得のいった表情になる。
「この間書道のアニメやってましたもんね悠希さんが主役の。その時ブルーレイの特典映像で濱野山に行ってました。その関連で仕事があったんですかね? いいなぁ、すみも行きたかったです!」
それだけじゃなくて……と私は声をひそめる。
「……隣には女の人がいた」
「え!?」
と予想通りの反応に私は事前に考えていた女の人の特徴を説明する。
「背は悠希くんと同じぐらい。細くてきれいな人だった。女性声優さん、なのかな……? それで名前は」
すみちゃんはふむふむ、と真剣に耳を傾ける。
「富田さんって言ってた」
ん、と一瞬間が空いた後。
すみちゃんは吹き出した。
「な、なんで笑ってるの!?」
こっちは不安なのに……。
「いや、梨々花さんがあまりにも真剣だったので、本当に彼女なのかって考えちゃいましたよ」
「どういうこと?」
「えっとですね。富田さんって方はマネージャーさんです。天野姉弟のどちらのマネージャーでもあります」
私、しばしフリーズしてしまった。
マネージャーさんの名前なんて、一般人は知らないよね?
「え? すみちゃん、なんでそんなこと知ってるの!? もしかしてすみちゃんも声優!? じゃあ会うの簡単じゃん! 今すぐ呼んで!」
「はーい、落ち着いてください、梨々花さん」
すみちゃんに深呼吸を強制させられる。
すーはー。
深呼吸が終わった途端すみちゃんにかみつくように質問する。
「すみちゃんは声優さんなの!?」
「全然落ち着いてないじゃないですか。——えっへへーっ」
突然話し方が変わって私は自分の耳を疑う。
え? すみちゃん!?
「実はそーなんだっ、おねーちゃんっ」
すみちゃんはいつもの声をガラッと変えて見せた。
アニメの妹キャラ? って感じ。
いつものすみちゃんと雰囲気全然違うんだけど!
「本当に声優さんだったんだ~すごいね!」
私が感心するとすみちゃんが笑い始める。
「ちょ、梨々花さん簡単に信じすぎですよ! そんなわけないじゃないですか」
「え? だってすみちゃんすごくうまかったよ、声変えるの! 本物の声優さんかと思っちゃったよ!」
ふふ、とすみちゃんは口に手を当てて笑う。
「あのですね、梨々花さん。声優さんってなるの大変なんですよ。生き残るのも大変なんです」
「え、そうなんだ!?」
芸能界って言ってもあんまり見たことなかったし声優って声変えられればなれるんだと思ってた。
声優になりたい人ってまいかちゃん以外にあったことなかったし。
―—真希ちゃんたちもそうだったわけだけど。
すみちゃんは姿勢を正す。
私もそれにつられてピシッと背筋を伸ばす。
「今や声優志望者は30万人いるといわれています。そこで生き残れれるのはわずか300人ほど。本当に厳しい世界なんです」
「さ、さんじゅうまんにん!?」
倍率はどれくらいって思わず計算してしまった。1000倍ってことでいいんだよね!?
それって普通に東大はいるのより難しいんじゃ……。
比べていいものなのかはわからないけど……。
「天野姉弟が所属している事務所は桐原事務所っていって若い世代に力を入れているんですけどここ最近は全然有名な方を輩出していませんでした。天野姉弟が人気になったのは本当にすごいことなんです」
「二人とも、本当に遠くに行っちゃったんだね」
コクリ、と頷く。
「あ、話がそれました。富田さんの話でしたね。真希さんが、真希さんのあこがれの声優さんとラジオをしているんですよ。その時にたまに富田さんの話になるので富田さんはファンの間では誰でも知っていると思いますよ」
「そうなんだね」
てことは彼女だったから一緒にいたわけじゃないよね。ほっとした。
よかった。
そうだよね、あんなにスクープされるのを気にしていたのに彼女と一緒にいるわけないもんね。
「で、悠希さんには何を言われたんですか?」
「もう、関わるなって」
「そうですか……」
声優さんになれるのはごくわずかな人で。
それで食べていける人はもっと少ない。
二人とも今はもう人気声優でこのままいけば食べていける人になるかもしれない。
それを邪魔するのはダメだよね。
夢が声優だったことは知らなかったけど頑張ってかなえたんだからそれを応援してあげたい。
捨てられた、とか馬鹿なこと考えてたなって思う。
「私、今のすみちゃんの話聞いてわかったよ。二人に関わるのはやめることにする。だって、二人に迷惑かけたくないもん」
「梨々花さん……」
すみちゃんが私の手をぎゅっと握る。
図書館が静かになるとドアが開く音が大きく聞こえる。
誰かが入ってきたんだ。
ちょっと恥ずかしいかも。
ごめんね、と思いつつ手を外す。
「あれ? 梨々花じゃん」
「遥大くん!」
振り返ると涼しげな顔。
「えっと、そいつは」
「あ、すみちゃんっていうの。同じ部活で。あ! 天野姉弟のファンなんだよ」
「秋野すみです。よろしくお願いします。で、こちらの方は……?」
すみちゃんがペコリ、と頭を下げる。
「桐原遥大。よろしくな。天野姉弟のファンってことは、あのことは知ってるんだな?」
すみちゃんが顔をゆがませる。
わざわざぶり返さなくてもいいのに遥大くん……。
すみちゃん、やっぱりまったく気にしていないわけじゃなかったんだね。
「あのことって」
「ああ。あの報道のことだ」
「もちろん知ってますよ。わざわざ雑誌も買いましたし」
すみちゃんが遥大くんから目をそれして言うと。
「ああ、違う。——天野真希、大変なことになったんだよ」
「え?」
遥大くんの深刻な言い方にすみちゃんは心配そうな表情を見せる。
何があったの?
あの報道だけじゃないの?
遥大くんが静かに口を開く。
「声帯ポリープと診断された」
幼馴染が人気声優になって活躍してました。 山吹ゆずき @Sakura-momizi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。幼馴染が人気声優になって活躍してました。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます