2020.5.22 17:12

二階の廊下。江森がスマートフォンを持って待っている。銀河が部屋から出てくる。


江森:学校から連絡があった。

銀河:また休校の延長か?

江森:阿波先生が亡くなった。

銀河:病気だったのか。

江森:入院したってみんな言ってただろ!どうして知らないんだ。

銀河:最近は大してスマホを見てないんだ。

江森:せめて大学関係の更新は読めよ。

銀河:今年度に入ってから一度も会わなかったな。葬式は?

江森:人を集めずに身内で済ませるそうだ。

銀河:(ため息。それは落胆というよりむしろ安堵に近い)確かにその方がいい。

江森:こんな時でなきゃお別れができるのに。


江森は涙を拭おうとする。銀河は彼の腕を掴んで止める。


銀河:顔に触っちゃだめだ。

江森:ああ、そうだった。

銀河:ティッシュがある。


銀河は自室からティッシュボックスを持ってくる。


銀河:ほら。(箱を差し出す)

江森:ありがとう。(一枚取って涙を拭く)

銀河:ドンブロウスキ先生は悲しむだろうな、仲が良かったから。

江森:魚沼も気に入られてただろ。

銀河:え?

江森:気づいてなかったのか?どう見ても目をかけられてただろ!

銀河:なんで阿波先生が私に目をかけるんだ。

江森:そんなの決まってるだろう、みんなお前が天才だって思ってる。

銀河:天才だったら去年の単位を二つも落とすか?

江森:訂正する、数学の天才だ。他は知らない。英語もかもな。

銀河:単に気になったことを知りたいだけだ。気にならないことは別にどうでもいい。

江森:それにしては気になることの範囲が広いよ。文系っぽいこともどんどんやるし。

銀河:やりたいことに関係してくる分野が多いだけで、本質的に興味があるのは数学とその応用だけなんだ。

江森:好奇心の強さこそ、先生が学生に求めていたものだよ。魚沼は絶対に数学の歴史に名を残す。俺が保証する。

銀河:それまで生きてればね。

江森:二人で長生きしよう。

銀河:そう、長生きしないと。世の中には面白いことがいくらでもあるのに、使える時間は少なすぎる。


銀河は自室に退場する。残された江森も退場。

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姉様屋敷で見る夢は アーカムのローマ人 @toga-tunica

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