ホットミルク

Solt-egg

ホットミルク

 温かくて優しいホットミルク。


 しばらくそれを飲まないように避けていた彼女は、数日悩んだ末に飲もうと決めたのだ。冷たい雨が降る中、1人傘を指しながらコンビニへ向かって、安い牛乳をパッと買って家に帰ってきた。そうして今、買ったばかりの牛乳をマグカップに注いで電子レンジで温めている。


 取り出したホットミルクはまるで一途な心のようにとても真っ白だった。立ち上る湯気もマグカップの温かさも全部、肌に触れてはぬくもりに変わって、冷えてしまった彼女の心をあたためていた。

 おそらく彼女の心の何処かには若干の後悔も潜んでいただろう。でもそんなことを考える程、彼女の心にはあまり余裕が無かった。


「あたたかいな……これで忘れないよね」


 彼女はそんなホットミルクに少しの期待を馳せながら、ゆっくりと口にホットミルクを流し込んだ。



 すごくあたたかい、でも。前までよく飲んでいたホットミルクと何かが違うように感じた時には、もう遅かった。


「あいつのホットミルクじゃない……」


 そう口から声が漏れると、突然目の前が涙で揺らめく。目元が熱くなっていく。


「こうなるって分かってたのに」


 ずっと溜まっていた感情が泣きじゃくる子どものようにあふれ出す。



 もうここには彼氏だったあいつが作る、あたたかい心がこもったホットミルクなんて無い。あるのは、ただ温めただけの牛乳だ。


「なんで、なんで別れるなんて言うの……?君以外の男なんか好きになれるわけないよ……」




 だから、ずっとぬくもりに

 触れ続けたくて、感じたくなって。


 冷たくて素っ気ないホットミルク。

 そんなものになる前に。

 またぬくもりを恋うように、

 もう一度牛乳を温める。

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