卒業式のスピーチ

人生

 送辞、在校生代表




 在校生代表挨拶――送辞を任された私は、体育館の舞台へと上がる。


 そこから見下ろす……卒業生、教師、そして来賓の親御さんたちやどこかのお偉いさん方。


 こうして改めて大勢の人を前にすると、これまでクラス委員や生徒会長として挨拶をしてきた私でも、さすがに緊張する。おまけに今年はいろいろあって、在校生としてこの場にいるのは私くらいしかいないから、舞台に上がるまで居心地の悪さが半端でなかった。


 だいたいの挨拶が初めての経験だけど、特に高校の卒業式ともなれば、先輩方の記憶にも残りやすいだろう。そういう点も私の緊張を助長するが、案外みんな自分たちのことばかりで校長や私の挨拶など頭に入ってこないかもしれない。

 四月にはたぶん似たようなシチュエーションで入学式の挨拶をするだろうし、ここでしっかり場数を踏もう――


 今は静まり返っているけど、終わる頃にはきっと万雷の拍手が待っている……はず。


 ……よし。


 私は気合を入れなおし、改めて卒業生一同に向き直る。


「送辞――」


 ええっと――緊張からどもりかけるが、とにかく手元の原稿に意識を集中させる。


「在校生を代表し、心よりお祝い申し上げます――」


 この文章を仕上げるために、私は入学してからのこと――今日卒業を迎える先輩方との日々を思い出した。

 読み上げる今も、書いていた時と同じ記憶が脳裏をよぎる。


 高校の入学式とあっていろいろと身構えていたのだが、思いのほか中学のころと変わらなかった。といっても中学の入学式なんてそれこそ三年前で、やっぱり新鮮な感は否めなかったけど。


 一年生になって、まあクラス委員とかやって――先輩方との最初のかかわりは、部活動だった。


 バレー部に入った私を、先輩たちは可愛がってくれたっけ。


 試合のときには、親御さんたちも応援に来てくれた。

 サーブをミスった時の恥ずかしさ、今でもよく憶えている。


 大会前の朝練、放課後の後片付け……顧問抜きで、先輩たちと話す時間。


 それから――今年は、生徒会に入って、三年生の生徒会役員たちから話をうかがう貴重な経験も出来た。

 後輩も出来て不安な私に、いろいろとアドバイスをしてくれたのだ。


 生徒会に入るといろんな部活や、先生たちとも接する機会が増えて、交友関係が広くなったのも感慨深い。


 失敗して、恥ずかしい想いもたくさんしたな。


 あぁ、思い返すとほんと恥ずかしい――


 ……て、卒業するのは私じゃないのに、どうして私がこんなに感極まってるんだろう。


 ともあれ、我ながらうまい送辞を書けたんじゃないかと思ってる。

 気持ちを込めすぎて長くなりすぎないよう注意して、私の回想とは裏腹に原稿は短く簡潔に、要点だけを押さえている。



 つまり――



「部活で先輩たちにいじめられ、それを訴えたにもかかわらず、先生方は誰も見向きしてはくれませんでした。先生たちも親御さんたちも私や私の友人に原因があるのではないかと言い、あまつさえ教育委員会の方々は私の投書を黙殺しましたね」



 私は淡々と、告げる。



「私の友人は先輩方のせいで不登校になり、先日自殺しました」



 ざわつく体育館。みなさん私の送辞に感動しているようで、書いた甲斐がありました。


 でも、在校生からのサプライズはまだ残っていますので。



「ではクソみたいな先輩方、人生のご卒業おめでとうございます。どうぞあの世に旅立ってください」



 在校生代表――



 私はスイッチを入れた。



 会場は、まるで爆発したように盛り上がりました。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

卒業式のスピーチ 人生 @hitoiki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説