手に入れた宝物

相応恣意

手に入れた宝物


 俺たちは本当の宝物を手に入れた――それは何より得がたい真の友情のおかげだと言うことは、皆の笑顔を見れば明白だ。


 神秘に包まれた秘境――前人未到の大地――そこには夢や希望、この世で想像しうる、ありとあらゆる財宝が、比喩抜きで収められていた――誰がどうしてこんな場所に、これだけの宝を隠していたかはわからないが、それはまた今後、ゆっくりと調べていけばいいことだ。

 

 これがすぐには現実だとは思えなくて――でもこれが、紛れもない現実なんだと理解できると、歓喜に包まれた俺たちは、最高のお祭り状態になって、皆で手を叩き、抱擁し、この奇跡を喜びあった。


 ズタボロになった服も、底がすり減って履き潰された靴も、俺たちを窮地から何度も救ってくれたヘルメットも――1人も欠くことなく、ここに至ることができた勲章のようで、とても誇らしく感じられる。


 なぜなら、まるで映画に出てきそうな迫る鉄球、落とし穴の先の剣山、踏板が外れる吊り橋――奇想天外な仕掛けや、予想だにしなかった数々のトラブル――それらの困難を乗り越えて、ようやく俺たちはここにたどり着くことができたのだから。


 いくつかの幸運に恵まれたのは否定しない――特に4年に1度だけ開く秘密の扉の存在に気づいたのが、扉が開く1週間前だと気づいたときには肝を冷やしたが――今となってはいい思い出だったと笑いあえる。


 俺たちは固い絆で結ばれている――そのことに気づくことができたからこそ、前に進むことができたし、途中でUターンする選択肢なんて、あるはずもなかった。


 1人で抱えていては解けない問題も、皆で知恵を出しあえば――力をあわせれば、きっとどんな困難も乗り越えられる――最初のうちは気づかなかったけれど、今になってみればよくわかる、つまりはそんな簡単なことだったんだ。


 けれど、話はそこで終わらなかったんだ。


 何かとても大切なものが壊れてしまう最初の一歩は、決して大袈裟な破滅である必要はなくて、むしろ、ほんの小さな綻びが、全てを台無しにするなんて、どこにでもありふれたよくある話だ。


 俺たちの間に知らず知らずのうちに芽生えていた不信の種――皆に拡散し、芽生えてしまえばあっという間のことで、俺たちは、夢を信じることを――手に入れたはずのものを信じることを、いつしか諦めてしまっていた。


 手に入れたものが何を示すのか、何が本当に大切なことなのか――その意味を知るのに、随分と時間をかけてしまった。


 あの日俺たちが見つけた、古ぼけた一枚の宝の地図――誰もそれが本物だなんて思いもしなかったけれど、最初にそれに真剣に向き合ったのは、誰だったろうか――今となっては、もう遠い昔のことのようで、残念ながら、すぐには思い出せない。


 最初はただ、誰も見たことのないものを見たい――それだけの純粋な想いだった。


 俺たちは果たして何を信じるべきで、俺たちの本当の宝物は、どこにあるんだろう?


 掴むべき未来を知らない俺たちの手の中は、気づけばどうしようもなく空っぽだった。



↑さあ、ここからどんでん返しだ。↑



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