バレンタイン ヴァラエティー

黒銘菓(クロメイカ/kuromeika)

第1話

 ゆきこ(回想):今日はバレンタイン当日。乙女にとって、秘めた思いをチョコに託して相手に渡す、大事な日。

 この日、何かが変わる……かもしれない日。


 ナレ:塾帰りの帰り道。ゆきこはたくおとひろきにあるものを渡した。

 ゆきこ:はいコレ。ハッピーバレンタイーン!

 ナレ:赤と青の包装がされた小さな箱だった。

 ひろき:ん?あぁ…………そうか、今日はバレンタインか。

 たくお:やったー!チョコだぁ!やったー!

 ナレ:小箱を受け取る二人。

 ゆきこ:今回は自信作!お婆ちゃんから教えて貰った秘伝レシピを使って作った手作りなんだから!

 たくお:え!?

 ひろき:………………え?


 ナレ:小箱を受け取った手が止まり、二人の表情が凍り付く。

 無理も無い。

 以前、二人はお菓子と言う名の蠢くクリーチャーを彼女に食べさせられていたのだ。


 ゆきこ:二人共、その反応酷くない!?今回はお婆ちゃん監修で作ったから大丈夫!『大成功、アタシの跡を継げるよぉ。』って言われたんだから!

 ひろき:……お婆ちゃん、気を使ったのかな?(遠い目で哀愁を感じる様な声で)

 たくお:婆ちゃん、俺達にも気を使って!(未だ見ぬお婆ちゃんに向けて必死で言う様に)

 ナレ:見る見るうちにゆいこの顔が曇っていく。

 ゆきこ:……そんな、折角作ったのに………。(しおらしく)

 ゆきこ(回想):解ってる。らしく無いって事は。

 何故か何時もやる事為す事失敗だらけ。頭も良くないから二人には迷惑を掛けてばかり。

 だから今回は、お婆ちゃんの力を借りて、失敗を重ねて、最後に成功した二つを渡した。

 …………やっぱり、私じゃダメか。


 ナレ:二人が顔を見合わせて申し訳無さそうな顔をする。

 ひろき:そんな顔するな……その…………………あれは冗談だ。

 たくお:一生懸命作ったって言うし、大成功したんでしょ?美味しくいっただっきまーす。

 そう言って二人共懐に包みを仕舞って夜の街へと消えていく。


 たくお:あっ、そうそう!

 ひろき:言い忘れていた。

 ナレ:消え行く二人は振り返ってこう言った。

 二人:ありがとな。ゆいこ。

 ナレ:『失敗しても決して諦めない。放っておけない奴』そんな風に二人が思っている事を、彼女は知らない。



 《翌日。塾にて》

 たくお:ちょっとゆきこぉ、アンタ何をアタシに食べさせたの!?(オネエさん声で)

 ひろき:これは………一体ニャンニャンだ………?


 グラマーな美女になったたくおと、猫耳を生やしたひろきが何とも言えない表情でゆいこに迫る。

 ゆきこ:え?何が?

 たくお:何がじゃない!

 ひろき:これを食べた後、ニャゼか猫耳が生えて来た。連絡したら、たくおもそうだったらしい。

 たくお:ここに来るまでに何人にナンパされたと思ってるのよぉ!?

ゆきこ:それはそうでしょ?だって、アレは『魔女の願い薬』なんだから。


 ナレ:『魔女の願い薬』。それは魔女の秘奥。食べた物の願いを肉体に発現させる薬である。

 ゆきこの祖母は実は魔法使いで、彼女に魔女の手ほどきをしていた。


 ゆきこ:ふたりの願いを叶えて貰う為に渡したんだけど。気に入った?

 たくお&ひろき:何(ニャニ)やってるんだ!世界観を壊すな!



 バレンタイン。この日は何かが起こる。

 巨乳美女好きが巨乳美女になり、隠れた猫好きが猫耳を生やす、普通の少女が魔女の素質を目覚めさせる………なんて事もあるかもしれない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

バレンタイン ヴァラエティー 黒銘菓(クロメイカ/kuromeika) @kuromeika

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ