009 家出娘がただただかわいいだけの回
「--とまあ、こんな感じなんだけど…」
「嘘みたいな話ね…。まあ、あんたの言うことだし信じるけどさ」
「そりゃありがたい。で、このことは--」
「わかってる。母さんたちに話しときゃいいんでしょ」
「いや違うから」
「じょーだんだって♪大丈夫、姉ちゃんを信じなさい!」
からからと笑う姉に、本当に大丈夫なのだろうかと不安を覚えずにはいられなかった。
ただ、結羽の状況について理解を示してくれたのはかなり大きかったな。いろいろ手伝ってくれるっぽいし。
姉さんはなんだかんだでやさしいし、頼りになる。もちろん面と向かってこんなこと言わないし言えないけど。
「そーいえばうちの悠と同じ名前なんだっけ?それだと呼びにくいなぁ…」
「え、あ、その…」
結羽が姉さんのテンポについていけずにあたふたしている。
それはそれで可愛いんだけど、だいぶ困惑しているみたいだし一回ストップかけておくか。
姉さんはよく周りが見えなくなるから…。
「姉さん、またいつものだよ」
「あっ、ごめんね」
「えと、大丈夫…です」
「~~~っ!かわいいーっ!」
「ふぇっ!?」
遠慮がちに答えた結羽を、姉さんが悶えながら抱きしめている。
結羽は顔を真っ赤にしているけれど、嫌がっているわけではなく、単純に照れているだけみたいだった。
それにしても結羽があんな大きな声出すのは珍しいな…。言われ慣れてないのとかもあるんだろうけど。
「姉さん、一回離してあげて。ちょっと苦しそう」
「あっ、ごめんね!?」
「ん。大丈夫、です」
「よかった~。あと、悠と同じように話していいよ。なんたってお姉ちゃんなんだから!」
またなんかよくわからないこと言ってる…。
結羽が完全にフリーズしちゃってるよ。
家族でさえ理解ができないのに、他の人に理解ができるわけがないんだけど。
でも、正直これはかなりうれしいと思う。
結羽敬語使うの苦手みたいで、少し話しづらそうにしてたから。
「ん。わかり…わかった。…お姉、ちゃん」
「「……」」
「…?どうしたの…?」
「いや、破壊力が高すぎただけ…」
よくわかっていないのか首をこてんとしている。かわいい。
いや、それにしても今のはぶったまげたな…。
「悠、おっさんくさいよ」
「なんか誰かにも同じこと言われたような…」
「あんた他の人にも言われてんの…?もう末期じゃん」
「うるさいな。自覚ないわけじゃないよ」
「なお悪いでしょ」
「(こくこく)」
「結羽までそう思ってたのか…」
けっこうショックだなそれは…
がくりとうなだれていると結羽がやさしく頭をなでてくれた。
「よしよし」
「う、なんか恥ずかしいな…」
「よくなでてくれてるから…おかえし、だよ」
「あんたら日常的にこんなことやってんの…?」
姉さんが呆れ半分好奇心半分くらいの顔で聞いてきた。
まあ、わりとこんな感じかな…?
いつもはもっと結羽のほうが甘えてくるけど。
そしたら、ちょっとむくれた結羽が膝の上にまたがってきた。
え、余計なこと言うなって?
…なんかごめん。
「ふふっ、まあ仲がよさそうで何よりだよ」
「(こくこく)」
「仲が悪いよりはいいもんね~。ねっ、ゆっちゃん」
「…ん」
ゆっちゃんにちょっとこそばゆさを感じてるみたいで、少し恥ずかしそうにうつむいている。
まあ、すぐに慣れるだろ。
俺の腕の中にいる結羽をなでてから、姉さんがキッチンに…
「ってちょっと待った。なんでナチュラルにキッチン行こうとしてるの?」
「ん?久しぶりに姉ちゃんがご飯作ってあげよっかなって」
「いや、それはありがたいし食べたいんだけど…」
時間、早くね…?
今の時間は朝の10時過ぎ。それなりに時間はたったけど、お昼にするにはまだ早いだろう。
結羽のことだら材料は買い置きしてあるだろうけど…。
「…あ。まだ買い物行ってないから、材料ない…」
「ん?ああ、ほんとだ。じゃあ、一緒に買いにいこっか」
「ん。かばん、とってくる」
「はいはーい」
「あ、姉さんちょっと待って」
「うん?」
姉に材料費を渡し…返されそうになったけど押し切った。
二人を見送ってから、部屋の掃除を始めた。
掃除といっても、結羽がいつもきれいに掃除をしてくれているから敷布団を押し入れの中に入れて小物の整理をして終わってしまったのだけど。
「ほんと、結羽のおかげで部屋すごくきれいなんだよな…」
彼女たちが帰ってくるまでまだ時間があるけど、特にやることもなく手持ち無沙汰になってしまった。
走りにもいけないし、どうしたもんか…。
一人だけくつろいでるのも違う気がするし…。
迷いに迷った結果、最近あまりやれていなかった筋トレをすることにした。
――次の日は一日筋肉痛に悩まされました。急にきついのやるもんじゃないね。
無口な家出娘、拾いました みーにゃ @gogatsunolion
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