008 予期せぬ来襲

「…ご飯、できてるから」


「ん。いつもありがとうな」


「…えっへん」


自慢気に胸を張る彼女の頭を軽く撫でつけてから、部屋に戻って部屋着に着替える。

頭を撫でられた結羽はむふー、とご満悦のようだった。


「おなか、すいた…」


「あれ、まだ食べてなかったのか?」


「ん。ゆーくんと、一緒がいい…」


嬉しいこと言ってくれるなぁ。俺に娘がいたらこんな感じだったのかな。まだそんな年じゃないけど…。

だいぶ考え方がおっさん臭くなってきてる気がする。気をつけないと…。


「…どーぞ」


「お、今日はシチューか」


「好きって、言ってたから…」


「よく覚えてるな…」


少し前に結羽に好きな食べ物がなにか聞かれたときに、シチューと答えた気がするけれど、まさかまだ覚えているとは。

それに、結羽が作ってくれたご飯はどれもすごく美味しいから、どれも好きだったりする。


「「いただきます」」


「はむっ…」


「…じーっ」


おいしい?とにこにこしながら聞いてくる。

迷うことなくおいしいと答え、食べ進める。

ちなみに今日の献立はご飯にクリームシチュー、あとはサラダと生姜焼きだ。

けっこうボリュームあるから食べ終わるころにはほとんど満腹になっていた。


「ごちそうさま」


「ん。お粗末様でした」


結羽はけっこう小食らしく、普段はあまり量を食べないけれど、好きなもののときはその体の一体どこに入るのかわからないくらいの量を食べる。

正直、俺でも食べきれない量だったし…。


「結羽はもうお風呂入ったのか?」


「ん。洗い物はやっておくから、入ってきていいよ…?」


「だーめ。洗い物は俺がやるって決めたでしょ?」


「…でも、ゆーくん疲れて…」


「結羽がここにいてくれるだけでも十分なのに、家事とかいろいろ任せっきりにしちゃってるから、少しくらいは俺にもやらせてほしいな」


我ながらクサいセリフだと思うけれど、結羽は観念したようにこくりと頷いた。

洗うものも俺と結羽二人分の食器と料理するのに使ったフライパンとかだけだから、そこまで量は多くない。

それでもそれなりに時間はかかってしまうので、ほかにもいろいろなことをやってくれている結羽には頭が上がらない。


「よし、風呂入るか」


「…背中、流す…?」


「遅くなっちゃったから大丈夫。また、今度ね?」


「ゆーくんが、そういうなら…」


心なしかしゅんとした様子で寝室に歩いていく彼女を見ると、けっこう罪悪感があるんだけど…。

たぶん、俺の理性が持たない。

まだ彼女は未成年だし、そもそも保護という名目でここで一緒に生活しているんだから、手なんて出せるはずがない。今の状態だって未成年者の誘拐と言われたら状況的に言い逃れできないし。


「俺の入浴シーンなんて需要ないだろうし、さっさとでるか」


寝巻に着替えて寝室に向かうと、結羽が俺の布団にぺたんと女の子座りで座っていた。

目はだいぶとろんとしていて、もうすぐにでも眠ってしまいそうだ。


「…あ、ゆーくん」


「もう遅いんだから、先に寝ててよかったのに…」


「おやすみって、言いたかったから…」


…ぐっ、可愛い。

にへら、と笑みを浮かべるとそのままぽふっと布団に倒れこんで眠ってしまった。


「まったく、布団もかけないで寝ちゃったよ」


「すぅ、すぅ…」


当の本人は気持ちよさそうに穏やかな寝息をたてている。

彼女の胸元までしっかりと布団をかけてから、俺も彼女のとなりで横になると、すぐに心地よい眠気が訪れてそのまま眠りに落ちた。



「--きて、起きて…」


「ん、ふぁ…」


誰かの声が聞こえて目をあけると、そこにはなぜか--

姉がいた。


「おはよ、悠」


「姉さん、なんでいんの?」


「たまにはかわいい弟の顔でも見ようと思ってね。で、この娘誰?まさかさらってきたの…?」


「いや、違うから。とりあえず向こういっててくれる?」


「はいはい。ちゃんと説明しなさいよ」


こりゃまた面倒なことになりそうだ…。

とりあえず着替えて結羽も起こして、それから説明するか…。

せっかく今日休みなのに…。

そう嘆かずにはいられなかった。

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