後退り 三十と一夜の短篇第47回
白川津 中々
■
最初の一歩は簡単だった。
踏み込む瞬間、ふわりと浮く身体。風が心地よく、今まで溜め込んでいた重りが剥がれていくような爽快感が胸をときめかせる。
目に見える光は輝き、身を焦がすような熱が突き刺す。心臓が躍り、内臓がクリアとなっていく。
素晴らしい。ただ素晴らしい。
曇天が流れ蒼穹となる世界。かつて抱いていた恐怖や不安が消えてゆく。空と地の間は無限で、この透き通った空間に閉じ込められる。時間が途絶え、久遠に繰り返す0と1の連続。きっと人は、例外なくこのために生きているに違いない。人は自由だ。自由はここにあるのだ。私は、自由と共に今、いるのだ。
最初の一歩は簡単だった。
一歩踏み込めば、後は……
後退り 三十と一夜の短篇第47回 白川津 中々 @taka1212384
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