その花は自ら種を蒔く
悠井すみれ
第1話
とある国に、美しい男女の姿を取る花があるという。それこそ蕾が綻ぶような華やかな笑み、艶やかな唇、潤んだ目。それらは全て葉や蔓や花弁でできた擬態であって、誘うような手招きも風のそよぎがそう見せるに過ぎないのだ。
しかし、それでもその
その
その男は、馬車の荷台に積んだ
「港まで卸しに行くんです。通っても?」
「
「どうも」
街の門を守る衛兵とのやり取りは、形ばかりのもの。衛兵が頷くと、男はすぐに
幌の中から声がしたのは、街が丘陵の向こうに完全に消えてから。周囲に人影がなくなったのをよくよく見計らった頃合いだった。
「人身売買を堂々と見逃すなんて信じられない!」
「でも、上手く行ったでしょう」
「ええ……喜んで良いのか分からないけど」
男が苦笑しつつ宥めると、少女は渋々ながら、といった様子で頷いた。男の献策を、少女は最初信じようとしなかったのだが。
人間にそっくりで美しく芳しく珍しい──そのような都合の良い
美しいのは整った顔立ちの子供を攫うか買うかしているからで、快楽をもたらすというのはそのように
広く流布した
「貴女ほどの方が
「ええ。一刻も早く安全な場所へ──そうしたら、見ていなさい……!」
「御意に。──急ぎますから、中で大人しくしていてください」
「分かったわ。お願いします」
金の頭が幌の中に引っ込んだのを確認してから、男は馬に鞭を入れた。
勝気な
花が繁栄するのに、甘い蜜や香りが必要とは限らない。美しささえ必須ではない。要は人の心を捕えれば良いのだから。
男は、火種を抱えた危うい
その花は自ら種を蒔く 悠井すみれ @Veilchen
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