いけにえ姫のダンジョン滞在記
序章
「まるでおとぎ話のお姫様ね」
きっとこれは、素敵な場面で、かわいらしい女の子の微笑みと共に使われてしかるべき台詞なのだろう。でも私は、対して可愛くもない疲れ切った女の子の私は、吐き捨てるようにしてその台詞を馬車の床にぶつけた。
それに対して御者も侍女も、憐みのこもった雰囲気を醸し出すばかりで返事はしない。
私は売られていくのだ。
邪悪なる魔王のもとに。
それは仕方がないのだ。
いらない姫なのだから。
妾腹の第4王女である私にまでは、詳しい話が下りてきていない。だが、お父様――国王陛下が、あろうことか「地下迷宮の魔王」に同盟を持ち掛けたことは知っている。
そして経緯はやっぱりわからないが「王族の中から、1人、生贄に出すなら考えてもいい」というようなやり取りがあった。らしい。のだ。
魔王に売られるお姫様なんて、まさにおとぎ話のお姫様。
だけれどそのお姫様には魔王が欲しがりそうな、可憐な美貌も、折れない芯の強さも、剣や魔法の心得も、ない。なにもない。からっぽの、血筋だけはある私。
こんな娘を送ってはかえって怒りを買うのではないかとの意見もあったらしい。だけれど、王族に連なる女の子たちで、自ら実質的な死地に向かいたいという子は皆無だった。その中で私は「行ってもかまわない」と伝えた。
妾腹の4女が日の目を見ることはまず、ない。其れこそ生贄同然に、手ごろな家格の男をあてがわれて、死んだように生きるだけ。仮にも王族だからそんなことはないと思いたいけれど、持参金を出す余裕がなければ尼僧院にぶち込まれてしまうかも。
そんな絶望的に長くて辛い選択肢より、私は自分の命を散らしてすっきり済ませてしまうことを選んだ。
後悔は、思ったほどにはない。
それは私の「趣味」によるものだと思う。
自分で剣を持ったことも、魔術の才もないくせに、私は冒険物語が大好きだった。
だから噂に名高き「地下迷宮の魔王」のダンジョンを一目見ることができるのなら、死んでもいいと、思った。
―――いけにえ姫のダンジョン滞在記
圧倒的になろう力がたりなかった。
没話。 猫田芳仁 @CatYoshihito
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