灰色の日常を変えるのは死神のカードと小さな窃盗事件

高校時代に女友達に振られたことを引きずり続けている大学生の渡貫詳。

一応『お悩み相談サークル』に所属し、時々持ち込まれる事件を解決して自尊心を満足させたりもするがその日常は灰色なまま。

そんな彼が学食で食事をしていると、ちょっと目を離した隙に割引券が盗まれるという妙な事件に巻き込まれる。しかも、ただ盗むだけではなく新聞記事とタロットカードをその場に残すという妙な犯行アピールをしてくる犯人。その後も学内で似たような小規模な窃盗事件が起き続け、サークルの後輩の角川貴理にせっつかれ、詳は事件の解決に挑むことに。一見何の意味もない犯行に思われた事件だったが、捜査を続けるうちに事件と被害者にある共通点が見つかり……。

事件のテーマとなるのは、犯人がどうやって盗んだのかという点ではなく、何故財布や貴重品ではなくどうでもいいものばかり盗むのか?という日常の謎にというジャンルの本作。手掛かりを丁寧に読者に提示しつつ、終盤で思わぬどんでん返しも用意されており、ミステリーとしてもしっかり面白いのだが、それだけではなく詳と貴理の他愛ない日常の会話が楽しく、一見事件に無関係な要素もしっかりとラストに結びついている青春小説としても優れた作品だ。


(「奇妙な犯罪」4選/文=柿崎 憲)

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