かつて警視庁の直轄犬にアルフという名のシェパードが実在した。胃腸が弱く、疲れると犬舎へ逃げ帰るためダメ犬とレッテルを貼られた。しかし、彼は後に数々の功績によって初の警視総監賞を贈られることになるのであった。
さて、本作の主人公アルは、フィクションではあるが実際の現場をとても丁寧に調べ描かれているので、ドキュメントと言われても違和感がないほどだ。前述のアルフに比べると生い立ちはお利口さんだが、警察犬としての資質や人間に対する愛には共通した強い想いを感じる。
長い歴史で培われた犬という生物が持つ、人の友であろうとする性質を彼らの生涯を通して見ることができる。そして、それらを取り巻く人から愛情を注がれる対象としての犬の姿が、短編でありながらも非常に上手く纏まっていると思う。またお題の消化も見事と言う他ない。
などと…、冷静に書いているふりをしながら、昨年末に十数年生活を共にしたワンコを失った私にとって、涙なくして読了することは叶わなかった作品なのだ。是非読んでみて欲しい。