肝試しのつもりが・・・

風見☆渚

合い言葉は“Uターン”

N県の山中にある、廃墟となった施設。

ここは昔、地元だけでなく他県からも多くの来場者が来ていた人気のテーマパーク跡地である。現在は閉館し、廃墟となったアトラクションが残され人の気配はない。その為か、最近では別の意味で有名になってしまい、若者達がよく訪れる密かな有名スポットとして知られるようになっている。

若者達が集まる別の意味とは、このテーマパーク内の奥側に建てられているミラーハウスだ。このミラーハウスは、テーマパークとして人気を博していた頃から奇妙な噂があり、当時も若者達の間でも人気のスポットとなっていた。入場口で配られるパンフレットやミラーハウス付近に貼られている注意書きには一切記述ははずなのだが、何故か入り口付近で控えている係員が必ず全ての入場者に対し耳元で囁くように注意する文言がある。

『このミラーハウスでは、絶対に振り向かないでください。』

振り向いたらどうなるのかと試した人間もいるが、実際のところ何も問題なく普通に出口から出てくる。しかし、入り口の係員は必ずその言葉を伝えてから入場させているのだ。その絶対のルールは、ネット上のミステリースポットとして人気となった今でも注意事項として伝えられている。いつから、誰がそんな注意をするようになったのかは定かではないが、このミラーハウスの中では絶対に振り向いてはいけない。もし行き止まりになった場所へ迷い込んだ場合は、振り向かず来た道をUターンしていかなくてはいけない。

そんなミステリースポットとして若者の間で囁かれるようになったテーマパークのミラーハウスには、数日前から可笑しな書き込みが投稿されるようになった。

『もし振り返ってしまったら、“Uターン”と叫ぶべし!ただ、オススメはしない、出来れば止めた方がいい。』

この文言も意味不明であり、信じるモノもいなかった。


「ここって、ネットで噂になってる場所だろ?」

「木村、びびってね?」

「びびってねぇし!平気な面して、加藤こそ本当はびびってんじゃね?」

「はいはい。なんでもいいから。こんな場所何処にでもあるし、ミラーハウスって状況が怖さ倍増の秘密になってんだよ。」

「でもさぁ、何か寒くね?」

「鈴本、お前薄着すぎんだよ。山ん中なんだから寒いに決まってるだろ。」


木村・加藤・鈴本の3人は、大学卒業を控えた同級生。3人は卒業旅行でN県を訪れており、旅の最後だからとネットで噂になっているミラーハウスに行くことになった。


ギィーー・・・


ミラーハウスの入り口は錆び付き、ドアの軋む音が夕暮れの寒空に響く。そして3人は、辺りを注視しながらもミラーハウスに入っていった。


「お!外よりも暖かいじゃん。」

「鈴本!先いくなよ。」

「加藤!鈴本!ネットに書いてあった振り返るなってやつ、一応守っておこうな!」

「木村、びびりすぎじゃね?」

「加藤!だから振り返っちゃダメなんだって!」

「あ~はいはい。わかったよ。じゃぁ鈴本も先行き過ぎるなよ。」

「あ~なんだって?・・・っ!

お前誰だ!誰なんだよ!うわーーーーーー!」

「鈴本?!どうした?!だから、そんなに先に行くなって!」

「・・・・・・・・・・・・」

「鈴本?」

「おい加藤、なんかヤバくないか?」

「木村、一応確認なんだが、お前そこにいるよな?」

「何言ってるんだよ加藤。お前の後ろにいるよ。」

「いや一応だよ一応。だって、振り返っちゃいけないんだよな?」

「あ、あぁ。何かしゃべりながら行くか。」

「そ、、そうだな。お互いに位置を確かめる為にも、そうした方がいいかもな。」


悲鳴をあげ、走り去ってしまった鈴本の声が聞こえなくなり、恐怖と不確かな視線を感じた2人は、お互いの位置を確認するように雑談しながら前に前にゆっくり進んで行った。しかし、ミラーハウスだけあり周りは鏡の壁だらけ。お互いの位置を会話で確認しなくても薄ら見えるお互いの人影で確認は出来る。しかし、振り返る事だけが出来ない状況の中、鏡に写っているのが本当にお互いなのかがわからなくなり、会話する事でしかお互いを確認する事が出来なかった。


「鈴本、何処まで行ったのかな?」

「そうだな。ここって迷路みたいなもんだしな。」

「外から見た時はそんなに広く見えなかったんだけどな。」

「走って行ったらすぐ行き止まりになるはずだよな。また行き止まりか。」

「おい、こっちに別の道があるぞ。」

「え?どっち・・・っ!!

お前、お前誰だ!俺?いや、お前誰だよ!」

「加藤!どうした?!俺はここにいるぞ!お前何見てるんだ!」

「木村!木村どこだよ木村!!」

「加藤!だから俺はここにいるって言ってんじゃん!」

「マジか!マジか!お前!俺、あーーーー!」

「だからどうしたんだよ加藤!」

「そうだ!“Uターン”!!」

「うわっ!」


ガシャン!!


加藤の“Uターン”の叫びと同時に、加藤がいた近くの鏡が突然割れた。そして薄暗い中、加藤がいたはずの場所には鏡の割れた破片と一緒に何か大きなモノが落ちている。

「・・・加藤?・・・おーい加藤?

どうした加藤?」

木村は周りに飛び散った鏡の破片をパリッパリッと踏みながら、加藤のいたはずの場所にゆっくりゆっくり近づく。すると、足下にごろっと落ちている何かを踏みつけた。

「なんだこれ・・・うわっ!」

木村が踏みつけたのは、人間の腕だった。

「この腕時計、加藤のじゃないか?」

恐る恐る足下に転がっている腕を覗き込むと、その腕には加藤の腕時計が付けられていた。その腕時計は、加藤が最近高かったと自慢していた品で、まじまじと見せつけてきた事で木村もよく覚えていた。

木村はすぐさまポケットからスマホを取りだし、カメラを起動させてた小さな光で辺りを照らすと、足下には加藤の腕時計が付いた腕が転がり、割れた鏡の破片と共に腕から大量の血が溢れ落ちていた。しかし、木村は周りの状況が可笑しい事に気が付いた。鏡の割れた破片が大量に散らばっているにも関わらず、周りに割れた鏡が一枚もない。

ただ一つ、何があっても振り返ってはいけないという絶対のルールだけは守らなくてはいけないという気持ちでゆっくりと、ゆっくりとその場を後退りする木村は自分の肩をポンと叩く人間の手のような感触を感じた。

「うわっ!誰だ!!」

「俺だよ。木村。」

「その声は、鈴本?お前大丈夫だったのか?」

「何が?俺なら平気だぞ。鈴本?なんでこっち向かないんだ?」

「ちょっと待ってくれ。今ゆっくりそっちまでUターンするから。」

木村は体の向きを変えず、後退りしながらゆっくりと、ゆっくりと肩を叩いた鈴本を後ろ向きに通り過ぎ横に並んだ。

「鈴本?お前、本当に鈴本だよな?」

「何言ってるんだよ。俺は俺だよ。」

「そうか良かった。」

「これどうしたんだ?」

「そうだ!加藤!加藤が消えちまったんだ!」

「消えたって、こんなかのどっかにいるんだろ?」

「それが、加藤の奴、振り返ったら突然奇声を上げて、鏡が割れて、んでいなくなったんだ!」

「木村、落ち着けって。」

「だってよ・・・」

「木村、ここには俺たち2人で来たはずだぞ。加藤は外で待ってるはずじゃん」

「は?鈴本!お前何言ってるんだよ!」

「とりあえず、落ち着けって。大丈夫だって。加藤は外にいるから、とりあえずここから出るか。」

「鈴本、出口わかるのか?」

「あぁ、とりあえずこっちこいよ。」


木村は鈴本に連れられるまま、出口を目指した。

思いのほかすんなり出口まで辿り付いてしまった事に、木村の開いた口は塞がらない。


「鈴本?お前本当に鈴本だよな?」

「あぁそうだ。何言ってるんだ木村。」

「木村!そいつから離れろ!そいつは鈴本じゃない!」

「加藤!お前・・・その腕、どうしたんだ?!」


2人が出てきた出口の影から現れたのは、片腕を失い大量の血を流している加藤だった。


「“Uターン”は戻る意味じゃなかった。確かに入り口まで戻ってきたが、“unknown”。何が起こるかわからないって意味だった。だから俺の腕がなくなった。そして、さっきミラーハウスの中で振り返った時、俺は見た。目の前にもう一人俺がいたんだ。

だからきっとそいつも鈴本だが、鈴本本人じゃない!」

「そうか・・・お前、本物の加藤か。だから・・・」


後日、閉園になったテーマパークの入り口にはバリケードが設置され、誰も入る事が出来なくなっていた。

だが、今でも怖い物見たさの若者が、このミラーハウスに来るらしい・・・

そして、帰って来たモノは口々にこう言う。


『可笑しいところは、何も無かった』

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肝試しのつもりが・・・ 風見☆渚 @kazami_nagisa

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