番外編② 竜鱗の感触(ショートショート : ヘリオ)
とある日。僕はどうしても気になることがあり、滞在中の宿で1人ウズウズしていた。
そんな僕の姿に気がついたのか、部屋にやってきたヘリオさんが僕に声を掛けてくる。
「……? なんかあったか?」
「あっ、ヘリオさん。実は気になることがありまして……」
「ほー、気になることねぇ」
「その、ヘリオさんへのお願いになるんですけど……」
「俺への? なんだ言ってみな」
「……竜鱗に触れさせてもらえませんか?」
「んあ? 竜鱗に? まぁ、別にいいけどよ」
ヘリオさんは困惑した様子で眉根を寄せるも、すぐに肯定の言葉を返してくれる。
僕は彼の返答に表情をパッと明るくすると、椅子から勢いよく立ち上がる。
「本当ですか!?」
「お、おう。んなことなら断る理由もないしな」
「やったー!」
「……そんな喜ぶことか? ……ほらよ」
言葉の後、ヘリオさんは右手だけ部分竜化をしてくれる。相変わらずかっこいい紅の竜鱗である。
「ほわぁ……」
僕は感嘆の声を上げながら、チラとヘリオさんの顔へ目を向ける。
すると彼がうんと頷いたため、僕はゆっくりと竜鱗に手を近づけ──ついに触れた。
「……ッ!」
その瞬間にまず感じたのは、まるで数メートルの厚みがあるかのような圧倒的な質量感とかたさであった。
……すごい。こんなの絶対に砕けないよ。
思いながら手をスーッと動かすと、続いてゴツゴツとした、しかしどこかツルツルとした不思議な質感が僕の手に届く。
その未知の感触にすごいなぁとペタペタと触っていると、ここで先ほどまで外出していた火竜の一撃の他メンバーとイヴが部屋へとやってきた。
そして僕たちの謎行動に一様に首を傾げる。
「レフトなにしてるの?」
代表して声を上げたマユウさん。僕は皆に向けて言葉を返す。
「えっと、どうしても竜鱗の感触が気になってしまって……だからこうして触らせてもらっていたんです」
「竜鱗の感触……」
「たしかに!」
「気になります……!」
「ガハハ! そうだな!」
──皆の心が一つになった瞬間であった。
目を輝かせ、皆がこちらへそろりそろりと近づいてくる。
「あ? お前ら揃いも揃って……お、おい」
その異様な雰囲気に、普段飄々としているヘリオさんも気圧されたように額に汗を一筋垂らす。
しかしそんなヘリオさんの反応などお構いなしとばかりに「かかれー!」というリアトリスさんの声の後、皆が彼の右手へと群がった。
かくしてもみくちゃになったのだが、それでも皆の表情が笑顔だったのは普段の仲の良さ故か。
なにはともあれ僕の疑問も解消し、皆と触れ合うこともできた楽しいひとときであった。
最強異端の植物使い〜外れスキル『植物図鑑』のせいで幼馴染と婚約破棄になったけど、チートスキルだと判明したので無双する〜 福寿草真【コミカライズ連載中/書籍発売中 @fukujyu7575
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