番外編① 悪夢と甘美な現実 (ショートショート : リアトリス)

 リアトリスの目の前で、レフトが嘲笑を浮かべる。そしてそばにいたイヴの肩をグッと抱くと、口の端を歪めたまま声を上げる。


「じゃあね、リアトリス。僕はイヴと一緒になるから」


 その言葉に続くように、同様にニヤリと笑うイヴが口を開く。


「さようなら。おばさん」


「お、おばさんって……2人してどうしちゃったの? それに一緒になるってどういう……」


「どういうって、言葉の通りだよ。僕はイヴと結婚する。だからもうおばさんとはお別れ。それだけの話さ」


「そ、そんな!」


「もしかして、可能だと思っていたのかい? 歳の離れたおばさんの癖に、僕と一緒になれると」


「勘違いも甚だしい」


 レフトとイヴの言葉に、リアトリスは遂にその瞳に涙を浮かべる。


「うぅ……」


 しかしそんな彼女のことなどお構いなしとばかりに、レフトたちはクルリと身を翻すと、スーッとリアトリスから離れていく。


 その姿にリアトリスは涙ながらに手を伸ばした。


「いや! レフちゃん! レフちゃーん!」


 ◇


「……はっ!」


 いまだ真っ暗な部屋の中、リアトリスはハッと目を覚ます。そして纏まらない思考をなんとか巡らせ、ようやく状況を理解する。


「ゆ、夢……」


 全くなんという悪夢だろうか。リアトリスの瞳に思わず涙が滲む。


 と、ここで彼女はふと視線を横に向けた。


「レフちゃん……」


 そこにはリアトリスの方へと顔を向けながら、天使の寝顔をしたレフトの姿があった。


 その食べてしまいたくなるほど可愛らしい容貌にリアトリスは小さく微笑んだ後、唐突に先程の悪夢が脳内に浮かぶ。


「……いつかあの悪夢が現実になることがあるのかな」


 そんな不安を抱いていると、ここでレフトがゆっくりと目を開いた。

 リアトリスは慌てながら小さく声を上げる。


「レフちゃん……ごめんね、起こしちゃった?」


「……んー? リアトリスさん?」


 レフトはトロンとした目をしている。

 その表情は誰が見ても、寝ぼけていると思えるほどに呆けたものであった。

 そんな顔のまま、レフトは呟くように声を上げる。


「どうして泣いてるんですか?」


 その言葉にリアトリスはすぐさま涙を拭うと、努めて笑顔を作る。


「あっ、ごめんね。実は悲しい夢を見ちゃって……」


 そんなリアトリスをレフトはぼうっと見つめる。そして少しして寝ぼけ眼のまま「あぁ、そうだったんですね……なら──」と言うと、リアトリスの頭を優しく抱きしめ、ゆっくりと頭を撫でた。


「よしよし」


「レ、レフちゃ……!?」


 突然のことに思わず声を上げるリアトリス。レフトは言葉を続ける。


「大丈夫。大丈夫ですよ〜。僕がずーっとそばにいますからね〜」


 その声にリアトリスは耐え切れず──


「うぅっ。レフちゃーん!」


 と言うと、勢いのままに抱きしめ返す。

 そしてレフトの言葉と温もりに心が癒されたのか、そのまま安堵と共に眠りについた。


 ──翌朝、なぜかリアトリスと互いに抱きしめ合いながら寝ていたことにレフトが狼狽えるという一幕があったりするのだが、それはまた別の話である。


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お久しぶりです。福寿草真です。

キャラクターを思い出すために書きました。

基本的にレフトと他キャラの絡みを描いてます。

現状、火竜の一撃の他3人とイヴに関しては投稿予定。それ以外のキャラについては未定です。


よろしくお願いします。

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