第5話 夏至祭当日。
夏至祭当日。
カイエルは、市民たちの生き生きした表情を見て、顔を曇らせていた。市民たちに悪気がないことはわかっていたが、最愛の人であるアンジェラ姫の病状を思うと、こんなのんきなことでいいのだろうか、と思わずにいられない。
そのときカイエルの名を呼ぶ声に、振り返ってみて腰を抜かした。これまで見たこともない、美しい姫君がそこにいたのである。金色の髪が後光のよう、青い瞳は海の水。
「わたしは隣国の姫、ユーグレナ。ここを案内してもらえますか」
カイエルは、一瞬アンジェラのことを考えたが、すぐ忘れてしまった。ふたりは手に手を取って、祭りを見学し始めた。
それからのひとときは、カイエルにとっては夢のようだった。鋭く燃え立つような陽射し、人を酔わせるさまざまな匂い、歓声、歓呼の声、潮騒のようなどよめき。カイエルは、ユーグレナとのデートを楽しんだ。真昼の太陽にあたって、ふたりは町中を巡り歩いた。勇者カイエルにとって、知らないところはなかった。
だれかが宿屋の出しているテーブルの前で、ふたりに乾杯をした。
「お似合いだよ、カイエル! サクンタラ神役は、そのお隣の女の子に決定だな!」
ユーグレナは、優雅にほほえんだ。
「お世辞でも、うれしいわ」
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