カクヨム2020夏物語 その2(だった物) ラピュタチルドレン

@wizard-T

ラピュタチルドレン

 あーあ、今日も先生が遠いの何の。

 冗談じゃないよ、一クラス四十人だなんて。


 もう慣れちゃったとは言え、席が遠ーい、空気が暑ーい!


「えー、いわゆるラピュタチルドレンたちにより2004年に入るや我が国は第三次ベビーブームに突入した訳で……」


 先生の声が大きいのは救いだけど、これでも優等生で通ってる身としてはマジ辛いんだよね、一番後ろって。



 しっかしさあ、今日も社会科の授業はラピュタチルドレンばっかし。

 この時期になるともう毎日毎日テレビでも新聞でもこればっかし。つまんないのでスマホを見ても話題は大半がこれ一本。他に何かない訳?ちょうど東京オリンピックだってのに話題はオリンピックかこればっかし。

 って訳で、家に帰ると私はお勉強かそれとも「1億ワールド」って言う日本人が子どもを産まなくなって1億人にまでなってしまった世界を描いたラノベを読むかのどちらかに時間を使っている。

 今は労働力を補うために途上国の死にそうな子どもを輸入すると言う話まで読んでいるけど、本当人口爆発とか起きている間に一方で人口減少とか世界ってややこしいったらないよね。




 ラピュタチルドレンってのがこの国にいきなり現れたのは、今から33年前の1987年7月20日、午前8時ちょうどの事。


 赤ちゃんはコウノトリが運んでくるとか子どもに向かって言うけど、まさしくコウノトリがボタボタ落っことしちまったかのように日本中に子どもたちが降って来た。

 そんなアニメみたいなことがガチのマジで起こっちまったんだよ。

 その前の年に同じ名前の映画が公開されたのにちなんで名付けられたこの現象のせいで、日本中が大パニックになった。

 私がもし母親だったとして、お前は空が降って来た子供だなんて言えるわきゃない。頭おかしいんじゃねえのって言われても言い返せない、はずだ。


「知っての通り、ラピュタチルドレンたちに対し時の内閣総理大臣たちはちょうど五十万人に上った子どもたちに対し特例保護法を緊急可決させ保護し、そして各地の里親を募って多数の養子縁組を行わせた。

 その時のひとりが先生だ。いや本当、たくさんの人間に迷惑をかけて来たからな」




 先生もラピュタチルドレンなんだよね。


 いくら教職課程すませて先生になる事が決まってるからって言ったってさ、まだ学生だったってのに結婚してそんで今の今まで四人も子ども作るだなんて本当せっかちだよ。一番上の子は小六、それこそ先生になって一年目で作ったんだから驚きだよね。

 しかもこれでラピュタチルドレンの中では晩婚だって言うからすごいよね。




 まあそういうふうに、ラピュタチルドレンってのはスタートだけじゃなくその後も、本当まるで別物の生き物みたいだった。

 基本的に男ならマッチョマン女なら家事上手の大和撫子に育ち、その圧倒的なパワーで体育や家庭科の授業で暴れ回った。

 でもほとんど例外なくアスリートになって金メダルとか考えようとしないで一刻も早く身を立てるべく、早く独立して飯を食えるようになろうと懸命になる。

 先生もまた必死に身を立てようとして勉強をつづけ、ストレートで教職課程を取ってそのまんま教師になって今までこうしている訳。本当、クソ真面目だよね。




 で、先生の授業が終わると次はお弁当。

 今日はBLTサンドイッチ、あとはキウイフルーツとブロッコリーだけのシンプルなお弁当。朝寝坊してこれしか作れなかったの本当ガッカリだよね、女子力の高さ見せつけなきゃいけないのに。


「久美、そのサンドイッチおいしそうね」

「高校どこ行くの」

「行かない。私美容学校行ってそこで手に職付けるから」

「そっかー、ラピュチルジュニアってみんなそうだよね」

「私も母さんのように資格取ったら早めに結婚しちゃおうかなーって」


 隣の優子ちゃんのお母さんもまた、ラピュタチルドレンだった。

 市役所勤めのお父さんと結婚して三児の母であるお母さんの方針は、それこそ「手に職」。子どもたちにもとにかく一刻も早く自分だけで食べられるように育て上げるのが第一の方針になってる。ラピュタチルドレン二世で私のように進学校に行くのは今のところほとんどいないらしい。


 それでいて、私以上にお弁当は豪華。毎日毎日、お母さんは必死になって作っているらしい。たまにはサボっても文句なんか言われなさそうなのに、本当真面目なお母さんだよね。

 でも中身はともかく、お弁当箱はまったく味気ない銀色のハコで箸も百均レベル安物感丸出し。それに対して何の文句も言わない当たり、ちょっとしつけられすぎって気もする。それもラピュタチルドレンの血って奴なのかなあ。



 1985年の出生数は、五十万人のラピュタチルドレンを入れて約百八十五万人になる。四人に一人がラピュタチルドレンになる計算だ。

 そんな中でもラピュタチルドレンたちは、自分がどこから来たのかまったく気にしている素振りを見せないでごく普通の幼稚園・小学校・中学校生活を送っていたらしい。

 もちろんラピュタチルドレンであることを理由に、いじめだって起きた。先生やパパママがいくらダメダメ言っても、やる奴はやるんだよね。



 でも不思議な事に、ラピュタチルドレンってのはめちゃ強いんだわ。


 例えば先生も小学校時代にラピュタチルドレンっつーことでノートを隠されたり水をかけられたりしたけど、何にも言わないでじーっと我慢してた。

 それでいじめっ子どもが調子に乗って女子たちの前でズボンを下ろしても何にも言わないで我慢して、それであまりにも腹が立っちゃって殴る蹴るのリンチを始めたんだけど、とうとう先生に見つかってジ・エンド。

 その子たちは全員反省文を提出させられ大量に弁償させられて、以後ラピュタチルドレン恐怖症になっちまったらしい。今どこで何をしてるんだか。


 他にも似たような話はたくさんあって、その結果だんだんとラピュタチルドレンの地位は上がって行った。



 そして精神的だけじゃなく、肉体的にも非常に強い。

 何せ、五十万人のラピュタチルドレンがまだ誰ひとり死んでいないらしい。


 まだ三十三歳とは言え、病気とか事故とかで死ぬ人がいてもまったくおかしくないのに。あれから二度大地震が起きて、それから他にもたくさんの災害に巻き込まれる事もあったはずなのに、ラピュタチルドレンたちはずーっと無事だった。本当、最強かもしれない。

 で、ラピュタチルドレンの男子二十五万人のうち先生みたいな第三次産業の人間は五万人もいないらしい。大半が農家や漁業、工場労働者とかについて毎日汗水流してせっせと働いている。

 ラピュタチルドレンたちのおかげで農家とか伝統工芸の跡取り問題もかなりのレベルで解決してるみたいでね、そしてその上にご存知の通り二児三児当たり前だから過疎化もなくなりそうな状態でさ、マジいい事ずくめだよ。



「あなたはどうするの今後」

「タイムマシンでも作りたいなって」

「すごいよね、ママも応援してるよあなたの事」

「だからそういうもんを作るためにはいい高校いい大学目指さないとね」


 今の私の夢は歴史学者か科学者、でもどっちかって言うと科学者。できればタイムマシンでも作って、正確な歴史って奴を見てみたい。だからこそ私は勉強を懸命に頑張る。



 パパに言わせると、歴史ってのも日々変わるもんだって。いいくに作ろうって何?って言ったら頭抱えちゃうし、まあそれだけでもわかる話だよね。

 それで他には、江戸時代の飢饉の餓死者がずいぶん減ってるって言われたんだよね。

「いけにえと言う名のいわゆる口減らしが行われ、これまでの研究よりずっと少ない餓死者しか出なかった事が近年判明した」

 結果らしいけど、いけにえだって死者には変わりないよね。まったくひどいインチキな政治だなって思えて来る。



 小学校時代にそのいけにえの人たちが着ていた衣装を博物館で見た事があるけど、真っ白でお葬式の時のそれみたいだった。


「何とも不思議な事に、いけにえたちの被服は下着や草履を含めまったくなくなっていなかったとされています」


 新しく見つかった古文書によると、本当に肉体だけなくなったらしい。どうしてそんな事ができるんだろうかと言う質問攻めにされた博物館の人は、今思うとものすごくかわいそうだ。

 だってラピュタチルドレンと同じぐらい訳が分からない話、お偉いさんを含め誰一人答えのわからない話なんだから。




 そしてその時いけにえの人の衣服を見た後に見せられたのが、ラピュタチルドレンをくるんでたタオルと履いていたオムツだった。

 オムツなんて汚いと思ってたら、それがむちゃくちゃにきれいな純白だった。何でも洗われた事も、そもそもその痕跡すらないらしい。

 そのタオルとオムツを構成する物質についてもそれこそ大学のお偉いさんが現在進行形で三十年以上かけて必死こいて調べてるんだけど、やっぱりどうしても解明できない成分で作られてるみたいでマジ難航中状態らしい。



 まあそういう訳でラピュタチルドレンって宇宙人なんじゃないかって話もあるけど、にしちゃあ先生を見る限り全然髪とか肌とか違わねえしなあ。

 人種差別ダメゼッタイとか言うけど、やっぱり日本人なんだろうな、うん。










 っつーかあの時、私は2050って数字がタオルに書かれていたのを見ちまった。


 そしてその事をまだ誰にも話していない。




 2050———―もしかすると西暦2050年かもしれない。あと三十年後、たったの三十年でできるとは思わないけど、実際にタイムマシンってのを作れたら絶対面白いに決まっている。真の歴史を見る事ができるのかもしれないし、って言うか見たいし。




 にしてもこの前優子のお母さんに会った時いきなり頭を深々と下げられたのは何?


 早すぎてゴメンとかって、意味わかんないんだけど。


 まあ、パパやママ以上に私の科学者になりたいって夢を後押ししてくれるから別にいいけど。

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