マンションの11階には

風見☆渚

カタリの引っ越し

都内、某所――

都内といっても、最寄り駅はもちろん辺りの風景は都会とは思えない程山や川など自然豊かな土地で、そんな都市部から離れた名ばかりの都内には密かに人気のマンションがある。相場よりも安いが都内に遊びに行くには不便な場所に経つ築50年を超えるキレイとは言いがたいマンションだが、何故か入居待ちが出る人気物件。そんな人気マンションに、偶然入居が決まった1人の学生がいた――


4月から大学生になるカタリは、推薦合格を決めていたにも関わらず引っ越し準備をすっかり忘れていた。暦は2月になろうかという時期にようやく動き出したカタリは、大学近くの不動産屋を歩いて回ったいた。昼飯にと入った牛丼屋の向かえにある古びた不動産屋の店構えが妙に気になったカタリは、出てきた牛丼をかっこみ急いでその不動産屋に入った。

大学近く家賃も安い、しかも速攻入居可能な物件という自分勝手な注文で部屋を探しているカタリではあったが、タイミング良くあいた物件があると紹介された。そこは、都内の割に自然が多い地域。店主によれば、10階建ての7階に空きは出たが殆どの物件が埋り、場所によっては入居が始まっている時期の急な空き部屋というだけでなく、都会の中心部から離れていたせいもあって人気がなさそうだと持って困っていたらしい。店主も即決なら好条件を追加で出だすという好条件にカタリも即決した。


2週間後――

引っ越し当日だというにも関わらず、カタリの荷物は異常に少ない。何故なら、店主から家具家電など中古をタダで譲ってもらっているのだ。至れり尽くせりな部屋には、数日分の着替えさえあればあとは現地調達。

数日の余裕を得たカタリは、マンション内や近所を探検した。数日後、無事大学生活は始まり、思っていた以上の楽しさにカタリは大満足で満たされていた。そして、カタリはサークル仲間とマンション近くの川辺でバーベキューをやることになった。カタリは自慢のアウトドア術を披露し、バーベキューは大盛り上がり。飲んで騒いでの楽しい時間が流れ、酔っ払った先輩がカタリに絡んできた。


「お前、あのマンショにいるんだってな。じゃぁ、11階の話は聞いてるんだよな?」

「11階?八代先輩、あのマンションは10階建てですよ。最初に不動産屋もそう言ってましたし。」

「お前しらねぇの?あのマンション、四年に一度だけ11階に行ける階層ボタンが元旦の1日だけ使えるようになるんだぜ。」

「11階って最上階の屋上じゃないっすか?確か、行ってみようと自分も思ったんすけど、ボタンが壊れてて付かないし、階段も何故か10階までしか上がれないんすよ。でも所詮屋上だし、きっと上がっちゃいけない決まりかなんかでもあるくらいじゃないっすか?」

「なんだ、お前知らねぇのか。でも丁度お前が入学してくるちょっと前の正月が丁度その日だったはずだぞ?お前何号室?」

「自分702っす。」

「じゃぁ705の鳥井ってやつに聞いてみな?あいつ11階に行ったことあるはずだから。でも、きっとなんにもしゃべらねぇと思うけどな。」

「それって・・・」


不思議だけを残し、八代は仲間の輪に戻っていった。実際、カタリも気にはなっていた。マンションの屋上は本来“R”で表示されるはずが、カタリが暮らすマンションの屋上は何故か“(11)”と表示されている。とはいえ話をしてきた八代も泥酔状態で、話の真偽は定かでない。11階のヒントは、705の鳥井という先輩の存在だけである。

11階の存在が元々気になっていたカタリは、翌日705を尋ねたが誰も出てこない。留守なのかと数日おいて何度か尋ねたが不在だった。

カタリは八代に鳥井について聞こうとしたが、何故か八代は言葉を濁している。不審に思ったカタリは、八代と同じゼミの門田を捕まえ言葉巧みに鳥井の情報を手にれた。

鳥井は、昼間は大学、夜はバイトであまり部屋に帰って来ないそうだ。やはり、居留守ではなく不在なだけだった。なんとなく安心したカタリは、鳥井が働いている店まで行きやっと鳥井に直接会う事が出来た。


「あの、鳥井さんですよね?」

「あぁそうだが、お前は?」

「お仕事中すみません。同じ大学で後輩のカタリっていいます。実は、自分先輩と同じマンションの702なんですが11階の変な噂を聞いたんすよ。しかも、鳥井先輩がその噂に詳しいとか・・・」

「!!お前、702にいるのか?」

「はい。なんかあるんすか?」

「・・・いや。俺は何も知らん。どうせ噂だからお前も気にすんな。よくある噂話ってやつだから。じゃぁ俺は仕事に戻るから。終電早いからお前早く帰れよ。」

「はい・・・・・・」


鳥井の話に納得出来ないカタリは、八代の反応だけでなく鳥井の反応も何処か同じように感じていた。気になった事はとことん知りたくなるカタリは、鳥井の数少ない休みを狙って無理矢理705に押し入った。最初は警戒していた鳥井だったが、人なつっこい性格のカタリのしゃべりに乗せられ次第に酔っ払っていった。

そして、カタリは泥酔の鳥井に11階の話を持ちかけた。酔っても鳥井は11階の事となると口を詰むんでしまう。もう一押し、カタリがつまみを作り出すと、腹を空かせる良い匂いに負けた鳥井が酔いながら11階について語り出した。


「かたりぃ~・・・お前は良い奴みたいだから、ちょっとだけならあの話教えてやるよ・・・」

「マジっすか先輩!是非!!」

「おれも、最初見た時は何だって思ったよ。だってよ~登山でもする格好の人が次々に11階に行くんだ。11階に何しに行くんだって最初は思ったよ・・・

でもな、11階にはなんかいるらしくって、ネットとかでも噂になってるんだ。おまえ知らねぇの?まぁいいや。11階のボタンは4年に一度、うるう年の元旦にだけボタンが押せるようになってる。んで11階に行くには、自分が用意できる最上級のお宝と、それに付随するお宝を山のように持って行くことが条件だ。準備が出来たモノを乗せると、エレベーターのボタンは青く光って押せるようになる。」

「青?いつもエレベーターのボタンって黄色ですよね?」

「そう青だ。ちなみに、条件が揃ってないと、赤く光って結局押せないんだ・・・」

「へぇ~・・・。先輩は何を持っていったんすか?」

「俺か?俺はコレだよ」

「コレって、時計ですか?」

「今はこんなちゃちなモンしか持ってねぇが、俺は時計のコレクターだ。自慢の一品もたくさん持ってたんだけどな、あの時全部置いて来ちまったんだ。でも、しょうがねぇよな。それで俺の願いは叶ったんだから。」

「・・・?

時計で願いか叶うってどういうことっすか?」

「だぁ~かぁ~らぁ~

自分の一番を持っていって、それでも足りないから関係する色々を一緒に持っていくんだよ。それで、自分が持っていったモノを気に入ってもらえれば、願いが叶うってわけよ。俺の時は、医者が見放した親父の病気を完治してもらったんだ。」

「?

そんなにたくさん誰にあげたんすか?

てか、気に入られなかったらどうなるんすか?」

「そりゃぁあのお方だよ。もし気に入られなかったら・・・・・・

ぐぉ~・・・がぁ~・・・んむにゃ・・・もう飲めねぇなぁ~・・・」

「・・・この人、寝てる・・・」


聞きたい事は聞けたカタリは、話の途中で寝てしまった鳥井の部屋を片付けて自室に戻った。

月日は過ぎ、4年が経過した。

大学4年のカタリは、クリスマスを友人達と賑やかに過ごしながら鳥井の話を思いだしていた。あれ以来、鳥井と会うことなく気づけば部屋の住人も代わっていた。

大晦日、もうすぐ年が開ける。カタリが自慢の一品に選んだのは、大学生活を飾った思い出のアルバム。さらに付随する品として、高校や中学など過去の卒業アルバムも実家から取り寄せていた。


――チンッ


7階のエレベーターが開く。エレベーターに乗ったカタリが階層ボタンを確認すると、鳥井から聞いていた通り11階のボタンは青く光っている。恐る恐る11階のボタンを押すと、心臓に響くほどの低音と共にエレベーターのドアが閉まった。

11階のドアが開くと、そこには後光に輝く人影がいた。カタリの語りかけてくるその人影の声は、カタリの脳に直接響いてきた。


“おまえののぞみはなんだ”

「俺の望みは・・・・・・」

“つまらん、つまらん”

「ちょっとまっ・・・」


ここはとある不動産屋。丁度今、家具家電付きの好条件のお手頃物件に空きが出ました。学生さんには人気の物件ですが、是非いかがですか?7階の窓から見える景色も最高ですよ。

ただし、この部屋に住むにはたった一つ条件があります。

それは、口が堅い事。絶対にこのマンションで起こった事聞いたことを誰にも話さないでください。そのお約束が守れない場合は・・・・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

マンションの11階には 風見☆渚 @kazami_nagisa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ