4−6「言わざる」
…以下は動画の内容。
一人うす暗い部屋の中。
デザイナーが自分の無実を訴えるため顔を映している。
その背後に何かが映る。
大きな猿に似たぼんやりとした影。
動画の視聴者コメントが猿でも飼い始めたのかと背後に映る影を指摘する。
背後を振り向くデザイナー。
だが、何も見えないのか彼は何かを言おうと口を開く。
瞬間、喉元がパックリと裂け、血が噴き出す。
押さえた目や耳からも血が流れ、デザイナーは床に倒れる。
その背後には猿がいる。
白濁した眼。
耳のない頭部。
喉が裂け、縫われた口元。
なぜか6本の腕を持つ猿は倒れた男をせせら笑うかのように見つめていて…
『…この6本の腕を持つ猿に関してはよく似た目撃情報がいくつもあるの。』
主任はメールを介し、僕にそんな話をする。
『口伝で言えば奈良時代から文献で言えばそれこそ平安時代から。まあ、会社のアーカイブにアクセスできればわかるくらいの情報だから、エージェントクラスでは常識に近い話なんだけれどね。』
そして、主任は話した。
歴史の中に何度か現れ、疫病のように犠牲者を増やす猿の存在。
存在を見たものも聞いたものも死んでいく定期的に出現する猿の存在。
…でもなぜ、その情報をメールで僕に伝えようとするのか?
そこで、僕は気がつく。
どうして主任はメールを介してしか僕に話さないのか。
どうして僕に口頭で話さないのか。
その瞬間、主任はスッと口元に指を当てる。
『そう、この件に関して他言してはいけない。数時間前、口頭で調査報告をした社員が何もないところで喉を裂かれたの。遡れば数年以上前にも同様の事件があってね…結局、話すこと自体がタブーなのよ、この件に関しては。』
すうっと僕の背筋が寒くなるのを感じる。
『この遊園地も丸ごと閉鎖しなければならないでしょうね。「言わざる」状態にするには、それしかないのだから…』
主任はそうメールを送ると遠くなる遊園地に目をやる。
悪夢のような猿が跋扈する遊園地。
ネットの情報の波の中で増え続ける猿の存在。
…そして数ヶ月後、遊園地は完全に封鎖された。
クリーン・アップ2 化野生姜 @kano-syouga
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