4−5「無言の会話」

『会社に着いたら簡単な検査を受けて報告書を書くことになるはずよ。でも定時より早めに上がれるから多少は得したと思わなきゃね。』


車に乗ってから主任は一言も発せず、僕にメールを送り続けている。


撤去班の運転する車の中、僕と主任は後部座席に収まっていた。

僕らの乗ってきた車は別の社員が運転して会社まで戻すとのことだった。


…だがなぜ、主任は言葉ではなく未だメールを介して会話をするのか。


『そうしないと小菅くんは調べちゃうでしょう?ネットでこの事件が話題になったのなら検索すれば情報がヒットするんじゃないかって、この時点でそんなこと考えてなかった?』


僕の思考を読んだかのような主任のメール。

…でも、そのことを考えていなかったといえば、嘘になる。


小説を書く上で何か面白いことがあれば、また仕事上で知らないことがあれば、最近僕はネットやスマートフォンで調べるクセがつき始めていた。


『まあ、調べること自体悪くはないけどね。知らないのに知ったかぶりするよりはずっと正直な反応だと思うし…でも、今回はやめといたほうが良いわ。』


そんな文を送りつつ、主任は僕にニヤリと笑う。


『件のデザイナーが死ぬ直前まで動画を撮っていた話はしたわよね?その動画はネットで検索すれば、まだ見ることができるのよ。』


正確には、のだけれど、と主任は付け加える。


現在、システム管理部ではこの動画を消そうと躍起になっている。

なぜなら、その動画を見ていた視聴者は例外なく…


『目を潰されるか喉を裂かれて死んでいるから。』


死ぬまでには多少のタイムラグがあるらしく、そのため被害者が自分のサイトやブログに書き込みをしたりSNSに動画のリンクを貼るなどしてしまい、被害が拡大しているのが現状なのだそうだ。


『元動画を潰しても、コピーしたデータを手元に残している人間もいるからね。今のところは情報部も協力して拡散が起こりそうなSNSや動画配信元の運営会社に注意を呼びかけているようだけど…完全に消せるかどうかはわからないわね。』


デザイナーの死因は公には発表されていない。


ただ、その動画に死亡原因となるものが映りこんでしまい、火に油を注いでいることは確からしい。


『まあ、その動画も異質だからね。』


そう言うと、主任は窓の外へと視線を移す。

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