空からの便り

オリオン

空からの便り

…学校からの帰り道、犬が捨てられていた。シーズーかな、こちらをジーっと見ている。


 私は昔から犬が大好きだった。前に飼っていたチワワのまるこが死んじゃってから私の家に犬がやってきたことはなかった。でも、なんだかこの子は私に飼って欲しいと言っているような気がした。…で、今お母さんに飼っていいかの交渉中。

「えー! 犬が捨てられてたの? ひどい人もいるもんだねー」

「うちで…、か、飼ってもいいでしょうか…?」

まるこの死を1番悲しんでいたお母さんに許しを得るのは難しいかも…

「かわいい〜! そうねー、飼っちゃおうか! そろそろわんちゃん飼いたいって思ってたのよねー!」

…お母さんは不思議な人のようです…。


 わんちゃんを飼い始めてから1週間が経ちました。とってもお利口で、かわいらしい女の子。名前はあずきです! お母さんはたくさんのわんちゃんグッズをそろえ、ウキウキしています。お父さんも妹のかなも大喜びで、家族みんなでメロメロです!

「あずき〜! 今日はもうお散歩行ったでしょ〜、明日の朝行ってあげるから寝ようねー! おやすみ、あずき」


「…きて、起きて。起きてよ、かほ!」

んー。朝かぁ。かなが起こしてくれたみたいで…す…!?

「かほー! 散歩行ってくれるんでしょー!」

…あ、あずきが。し、しゃべってるような…。いや、夢だな。うん、夢だと思います。

「かほー! 夢じゃないから! 今日はおばあちゃんのところに行こうよ!」

おばあちゃん…。2月29日、おばあちゃんが亡くなってから4年が経ちました。小さい頃、私はおばあちゃんっ子で、よくおばあちゃんの家に行って遊んでいました。中学生の私はおばあちゃんが入院している時、あまりお見舞いに行きませんでした。どうせすぐ治る、そう思っていました。私がろくにお見舞いに行かないうちにおばあちゃんは帰らぬ人となってしまったのです。ずっと後悔していて、少しでいいから話したい、そう思っていた気持ちがあずき(犬)が話しているかのような幻聴にまで陥ったのでしょうか…。

「あ、あずき…? なんで話せるの…? あと、私のおばあちゃんはもういないんだ、ごめんね」

「おばあちゃんに会いにお墓に行こうよ! きっと、おばあちゃんはかほに会いたがっているよ!」

「あー、お墓参りね。今年も行くよ。毎年行ってるから安心してよ」

「毎年とは違うの!今年はちゃんと2月29日にお参りできるんだから!」

そういえば、毎年行ってるって言っても2月28日に行ってただけか…。

「ほら、かほー! 早く行くよ!」


ーーおばあちゃんのお墓に着きました。1人で来たのは初めてです。

「おばあちゃん、久しぶり。天国で元気にしてる? 私ももう高校生だよ」

静かなお墓の前で1人つぶやくように話しかけました。

「トメさん、お孫さんですよ〜。私のことを拾って大切に育ててくれています」

…あずきもなんだか話しかけている。冷たい風にあたっても、お墓まで歩いてきてもあずきの声はずっと聞こえていた。もしかして、本当にあずきは話すようになったのかな…。

「…ほ、かほ。元気そうだね、久しぶり」

「え…、おばあちゃん?」

あずきとは違う、聞き慣れた温かい声が聞こえたような気がした。

「大きくなったね、毎年毎年ありがとう。いつも私の好きなおまんじゅうを持ってきてくれるの嬉しいよ」

「お、おばあちゃんなの…? ほんとに?」

「ふふ、そこのわんちゃんが少しお話させてくれるって言うから、かほと話せるようにしてもらったのよ。嬉しいわぁ」

あずき…、何者!?

「えっと、おばあちゃんに話したいことたくさんあったの! まず、お見舞いに行かなくてごめんね。私おばあちゃんのこと大好きだったのに、恥ずかしくって、おばあちゃんの病気のこと信じたくなくて…、本当にごめん。最期に会えなかったことずっと後悔してた」

「ふふふ。その話なら、毎年聞こえてるよ。後悔させてごめんよ。私も会いたかったけど、怒ってなんかいないさ。今こうして話せてるんだから楽しいお話でもしようじゃない」

「おばあちゃん…」


 それからおばあちゃんが亡くなってからの私の日々やおばあちゃんの天国での温かい暮らしをたくさんたくさん話した。子供の頃おばあちゃんと食べたおまんじゅうとともにね。

「トメさん、かほ。そろそろ時間なの。ごめんね」

あずきが私達の話を遮って、申し訳なさそうに言った。

「そんな…。おばあちゃん行かないで」

「かほ、大丈夫。私はあなたの心の中にいるわ。ずっとずっと元気に育ってね。家族みんなで幸せにね」

「おばあちゃん…。おばあちゃんも元気でね。いつかまた会える日までいっぱい成長するからね! 毎年会いに来るからね!」

「うん、ありがとう。またね」

それからおばあちゃんの声は聞こえなくなった。聞こえなくなってから少し泣いた。おばあちゃんが亡くなったときとはちょっと違った涙だった。

「お家に帰ろう、かほ」

「そういえば、なんであずきは話せるの? おばあちゃんと話せたのもなんで?」

おばあちゃんと話せたことに驚いて、あずきのことを忘れていた。

「それはねー、な・い・しょ♡」

「…えー、あずき教えてよー!」


 お家に帰ってから家族にこの話をした。あずきは家に帰るとなぜか黙っていて、皆信じてはくれなかった。でも、おばあちゃんが幸せを祈ってくれてるなら嬉しいね、なんて話して楽しい時間を過ごせた。その後、皆でおばあちゃんのお墓参りに行って、さっき食べたのとおんなじおまんじゅうをお供えしてきた。おばあちゃんの笑った顔が目に浮かぶ。ずっと皆で幸せに過ごしたいな!


 「かほ、私を拾って大切に育ててくれてありがとう。明日からはまた普通の犬さ。これからもよろしくね」

あずきが寝る前に私に言った言葉だ。あの日のことはずっと忘れないと思う。


 動物を大切にしてくれている人の元へ幸せを届ける、それが私たちの使命さ。4年に1度、人々の願いを叶える“空の郵便屋さん わんちゃんず”。あなたのところにもやってくるでしょうか。

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