最終話
「へへっ、見ろよ! やっぱり俺の言ったとおりだったな!」
あれから3ヶ月。 ダンジョンの閉鎖も解除され、迷宮学園に平穏が取り戻された。 喧騒と動乱に満ちた、愛すべき平穏だ。
そして、天晴、火夜、鈴華、それにアーサー、オーラ、律華の6人は今14階層を訪れている。
相も変わらず吹き荒ぶ砂嵐。しかし今日は幾分かおさまっているようで、3ヶ月前と明確に違うのは、そのほんの僅かな一地帯に美しい花畑が出来ていたことだった。
「まさかこんな……! 私が勝負に負けるなんて……!」
「おやおや~? 元生徒会長の律華さーん? たしか負けた方は聞かれたことなんでも答えるんでしたっけ~? 約束、忘れてませんよね~?」
「わ、わかってるわよ! なんでも聞けばいいじゃない!」
「だってさ火夜! いったいなにを暴露させてやろうか!」
「私、ずっと気になっていたことがある」
「おっ? なんだなんだ?」
「私の歓迎会のときの写真。 あれをどうやって撮ったのか知りたい。 あんな決定的瞬間、ずっと尾行していなきゃ撮れないはず」
「ああ確かに。 おう律華、どういうことだよ」
軽い調子で尋ねる天晴。 しかし当の律華はなぜかその話題が出た途端に慌てはじめる。
「た、たまたまよ! たまたまその日様子を窺っていたら出会したの!」
「たまたまぁ~? そんな答えで通用するわけねえだろコノヤロウ!」
「うぅ……!」
そのとき、不覚にも律華は妹である鈴華に視線を移してしまった。
それを見逃さなかった天晴、 彼は何かに勘づいて携帯を寄越せと要求した。
「律華! ちょっと携帯見せてみろ!」
「い、いやよ! それだけは絶対……! って、ちょ、あっ!」
拒むものの、一瞬の隙をついて天晴は相手のポケットから携帯を奪った。
「あーくそ! ロックがかかってやがる!」
「パスワードはSisterだよ天晴」
「サンキューアーサー!」
「アーサー、あなたいつのまにパスワードを……!」
「入力する度に小言で唱えていたら嫌でも覚えるよ」
「な、なんですって……!」
「りっかっちはそういうところ天然なのにゃー」
律華が愕然としている間に天晴はロックの解除を成功させた。
そして待受画面が表示されるわけだが、それがまた衝撃的なものだった。
画面いっぱいに表示される鈴華の画像。
すかさず画像フォルダを開いてみると、数千枚に及ぶ鈴華ピクチャーコレクションの数々。
幼少期から現在に至るまで、寝顔やら着替え中やらの盗撮写真がところせましと並んでいた。
「こ、これは……」
めずらしくドン引きする天晴。
「み、見たわね! これだけは誰にも知られたくなかったのに!」
「ウチらはとうの前から知ってたけどにゃー」
「えっ!?」
「隙あらば鈴華ちゃんの写真見てにやついてるよね」
「え、えぇっ!? 気づいていたなら言いなさいよ!」
「「いや、知らないでいてあげるのが優しさかと思って」」
「あなた達ねぇぇぇぇ!!!」
律華は怒りのままに怒鳴り立てたが、途中、鈴華の冷ややかな視線に気がつき我に返る。
「す、鈴華。 ち、ちがうの、これは……」
「お姉様、これはいったいどういうことなんですか? もしかして、今の今までずっとスズのことストーキングしていたんですか? 変態なんですか? シスコンなんですか?」
鈴華はより一層の恐ろしい剣幕を見せる。
言葉に詰まった律華。 彼女はすぐに白状した。
「そ、そうよ。 多分私はシスコン…… あなたがものごころつく前は親が引くほどあなたのことを愛でていたわ。
だ、だって仕方ないじゃない! こんな、天使のようなルックスをした年の離れた妹よ! かわいいがるに決まっているでしょ!?」
「いや…… にしてもこれは度が過ぎてるだろ……
てか、そんなに好きならなんであんなに距離を取るような真似してたんだ?」
「それは、もし私が病弱な鈴華に接して物理的に傷つけるといけないから……」
「そのわりには訓練場でボコボコにしてたよね」
「あ、あのときだってどれだけ心が苦しかったか……」
「でもその後、私の鈴華がすごくたくましくなってるー! って大泣きしていたのにゃ!」
「オーラうるさい! ああもう、姉としての威厳が…… 培ってきたイメージがぁぁぁ……」
悲鳴を上げてその場で崩れる律華。
そんな彼らを他所に、いつの間にか一人離れて何か考え事をしながら砂漠に咲く花々を眺める天晴。
それに気がついた火夜も、そろっと抜け出しては天晴の横に並んだ。
「綺麗な花。 太陽みたい」
「んーそうだなぁ。 まさか、ミノタウロスがこんなのを残していくなんてなぁ」
「でも、どうして綺麗な花が咲くってわかったの?」
「それを言うなら火夜もなんでわかったんだよ」
「ん…… 聞いても怒らない……?」
「えっ……? なんだよ、怒らないから言ってみろよ」
「実は、あのミノタウロス、ちょっとあっぱれに似てると思ったの」
「俺に?」
「うん。 やんちゃなところとか、あと目も少し似てたかも。 だから、あの芽をみたとき、もしかしたらあっぱれ! って感じの綺麗な花が咲くのかなって思ったの」
「おー……、なかなかの超理論だな。 でもまあ、俺も同じような理由かもしれない」
「というと?」
「なんつーか、戦ってる最中にシンパシーを感じたんだよ。 自分が誰かわかんなくって不安で寂しくって、ただ友達がほしいだけなのに上手くいかなくって。 戦ってると、そういう悲しみとかが伝わってきたんだよ。
だから俺の場合はどちらかというと"願い"だ。 もし神様がいるなら、綺麗な花を咲かせてやってくださいっていうな」
「ごめん、ちょっと何言ってるかわからない」
「ははっ、おまえほどじゃねーよ。……なあ、昔の俺の話していいか?」
「昔の話? でも記憶が無いんじゃ……」
「おん、だからこれは記憶が無くなってからの話だ。 あれは確か孤児院に引き取られて半年経ったくらいかな? そこで、はじめて学園長に会ったんだ」
「学園長って、浅黄瀬さん達のお父さん?」
「そうそう、浅黄瀬龍仁朗。 あの人、はじめて会ったときもバレバレのズラ被っててさ。 汗まみれので九州のど田舎にわざわざ俺に会いに来たの。
そんときに名前を聞かれた。 あなたのお名前はなんですか? って」
「あっぱれはなんて答えたの?」
「聞いて驚け? 俺に名前なんかねえ! つってズラを叩き落としたんだ」
「えぇ…… どうしてそんなことを……」
「荒れてたんだよ。 あんときの俺は。 記憶がないから何も分からなくて、自分の知らないことだらけで、天涯孤独だかわいそうなんて言われてもピンとこなくて、そういうのにムカついて仕方なかった」
「そっか…… そうだよね…… でも、どうやって今みたいに立ち直れたの?」
火夜がそう質問すると、天晴は天高くを指差した。
力強く光を照らす太陽。目の前の花に似た、真っ赤に燃える太陽だ。
「太陽?」
「そ、太陽。 また別の日に学園長が俺のとこ来たんだよ、ダンジョン学園に来ないかって。 ダンジョンはいいぞ! まだ誰も知らない驚きと興奮がわんさか眠っているんだ! ってな」
「まだ誰も知らない……」
「俺もそのワードに興味がわいたよ。 まだ誰も知らない。 記憶があるやつでも知らない。 つまりダンジョンでなら、みんなと同じ条件なんだ。 覚えているか? クラスでの自己紹介のとき言った俺の目標」
「えっと、確かダンジョンの最奥部に到達すること?」
「そうそれそれ。 おもしろいと思わないか? 記憶がなくてなーんにも知らなかった奴が、 まだ誰も見たことがないその場所にたどり着いたりなんかしたら」
「たしかに、それはおもしろいかも」
「だろ? あのとき学園長もこんな話をくれたよ。 君には何もないぶん、人より多くの夢を持つことができる。それは、とても素晴らしいことなんだ。
それに君のご両親は確かに今も君の中にいる。その天晴という名前に自分達の願いを託したはずだ。 燦々と輝く太陽のように、いつまでも明るい君であってほしいと。
だから、もしダンジョンの奥底にたどり着いたら叫んでみないか? 君と、その名をつけてくれたご両親と、関わったすべての人間、あるいはこの世全てに向かって、天晴れ! と、ってな!」
「……うん!うん! 絶対に3人で最奥部に行こう! それで3人で叫ぼう! あっぱれ!って!」
「ぬはは! ありがとな! 火夜達がいてくれたら心強いよ!」
そんな話をしていると気がついた鈴華が猛ダッシュで迫ってきた。
「ちょっと二人ともー! なにこそこそ話し合ってるんですかー!」
「こそこそなんてしてねーよ。 ちょっと昔の話していただけだ」
「本当ですか? 浮気は許しませんからね!」
「浮気って……」
子供っぽく頬を膨らませる鈴華に困った様子を見せる天晴。 そして、クスリと笑う火夜。
すると、どこからともなく爽やかな風が吹いてきた。
「気持ちいい……」
「ああ、いい風が吹くなここは…… あっ、そうだ!」
「どうしたんですかおにーさま?」
「思いついたよ、俺たちのパーティーネーム!」
「パーティーネーム…… ああ、確か3か月前から仮申請のままでずっと待ってもらっているんでしたっけ」
「そうそう、でも今の風でビビッと、いや、ビュビュッと来たぜ!」
「もう、もったいぶらずに教えてくださいよ」
「わりぃわりぃ。 ……俺達のパーティーネーム、それは【名もなき風】だ!」
「名もなき、風?」
「おう! 今はまだ誰にも知られない小さな風だけど、いつか大きな台風の目となってこのダンジョンを席巻する! どうだ? だめか?」
「いいんじゃないですか? スズ達らしくって素敵な名前だと思います」
「私もそう思う!」
「よっしゃ! それじゃあここが俺達の新しいスタート。二人とも、円陣組むぞ!」
「はい!」
「うん!」
3人は互いの手を重ねて空に昇る太陽向かって天高く掲げた。
すると、光は強さを増し、柔らかい風がまたもや吹く。
花は静かにそよぎ、それらはまるで天晴達の門出を祝福するかのようだった。
きっと彼らには今まで以上の試練や苦難に立ち向かうことになるのだろう。 けれど、恐れることは何もない。
彼らはもう本当の強さを知っているから、彼らはもう仲間の大切さを知っているから。
だからきっと、何があっても力を合わせてその壁を突き破るだろう。
少年少女、彼らの冒険はまだまだ続く。
これはそのほんのはじまりを描いた物語。
未来の探訪王は留年生!? ダンジョン学園の四留生徒、実は世界最強の男だった ベッド=マン @BEDMAN
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