君と巡る甘味とスープ

ぎざ

君と巡る甘味とスープ

Soup.1 しあわせとパンケーキ

しあわせとパンケーキ

『男は女から、大好きなパンケーキを作ってもらった。食べたら、とても嫌な気持ちになった。どういう状況だろうか』


「え、またそれ?」


「うん、ウミガメのスープ」


 今日はちょっと遠出して、テレビで話題のハッピーパンケーキというお店にやってきた。ふわふわのパンケーキが自慢らしくて、開店前から並ばないと食べられない。


 たまたま期末テストが終わって早く帰れたものだから、待ち合わせをしてやってきた。開店30分前だというのに、前に10人とちょっと並んでいた。恐るべし、ハッピーパンケーキ。


 私の向かいの席に座るのは巡屋くん。同級生。普段は無口で、ちょっと変わったところがある、私のスイーツ友達である。

 そんな巡屋くんの最近のブームはウミガメのスープ。


 ある不思議な状況が問題として出されて、それに「はい」か「いいえ」で答えられる質問ならばしてもいい。その答えを聞いて、推理して、その不思議な状況の答えを当てる推理ゲームだ。


 私はかなり不得意だけれど、巡屋くんが好きならば仕方がない。私も、巡屋くんをスイーツ巡りに付き合わせてしまっているから。それに、表情からははっきりとは分からないと思うけど、私にはわかる。このゲームをしている間、巡屋くんはとても楽しそうだから。


 だから、良いと思う。楽しんでくれているのなら、続けよう。


 たぶん、巡屋くんにとって、このスイーツ巡りも、私が楽しそうだから、付き合ってくれているんじゃないかなって。そんなに、甘いもの好きじゃないもんね。


 無理しないでね、って言うのは無粋だし。


 私は今日も無い頭を悩ませる。


【Q.女は男に嘘をつきましたか?】


「A.はい」


【Q.男はそのパンケーキが大好きだった?】


「A.はい」


【Q.男には何か不幸せなことが起こりましたか?】


「A.いいえ」


【Q.犯罪が関係ありますか?】


「A.いいえ」


「犯罪関係ないの?」


「関係ないねぇ。女は別に、悪いことはしてないよ」


 さっそく大人気のハッピーパンケーキを注文した。注文した品が来るまでの間の暇つぶしに、よく問題を出してくる。巡屋くんは問題を作るのが好きらしい。

 作るのが好きなのか、出すのが好きなのか、どっちなんだろ。


 私はアイスティー(ミルクと砂糖少々)。巡屋くんはアイスティー(ストレート)。

 写真でパンケーキの見た目は知っているけれど、ふわっふわらしいからなあ! 弾力がすごいんだろうなあ! 口にほおばるところを想像して、私はそれだけで幸せな気持ちになった。


 あ、問題のことを忘れてた。


「まだ食べてないのに、幸せそうだよね、君は」


 私がパンケーキを想像してにやけていたのがばれていたみたい。そりゃそうだ。この席には私と巡屋くんしかいない。巡屋くんは、私の顔を見るしかやることがないのだから。


「だって、幸せになれるんだよ、そのパンケーキを食べると! 美味しいんだろうなあ」


 でも、問題だと男はとても嫌な気持ちになったんだよね。せっかく大好きなパンケーキを食べたのに。


【Q.男が嫌な気持ちになったのは、嫌なことを思い出した?】


「A.はい。でも、そんなに深い話じゃないよ。ヒントはね、男は、小さい男の子だったんだ」


「えええ? 男女の恋愛のすれ違いとかかと思ったのに……」


 小さい男の子が出てくる場合、だいたいは……、


【Q.女は男の子のお母さんですか?】


「A.はい」


 大好きなパンケーキを食べていて、嫌なことを思い出す? 味?

 で、お母さんが子供に嘘をついて食べさせたってこと?


「あ! もしかして、お母さんが、子供にパンケーキをごちそうしたんだけど、こっそり子供の嫌いな野菜とかを入れちゃってたんじゃない? それに食べて気づいちゃって、嫌な気分になったとか!!!」



「おおおお、正解。すごいね」


「へへへん、どうだ。まぁ、私、嫌いな食べ物ないから、ちょっとその気持ちはわからないけどね」


「嫌いな食べ物ないんだ、すごいね」


 アイスティーを一口飲んで、巡屋くんが続ける。


「嫌いな食べ物がないのに、好きな食べ物にそんなに幸せそうな顔をするなんて、うらやましいな。良いことしかない気がする」


 そんなこと考えたことなかったな。そう考えればそうなのかも? どうなんだろ。


「嫌いな食べ物、というか、これといって食べられないものがないって感じかな。あとは、そんなに好きじゃなくても、その食べ物に楽しい思い出があったりすると、嫌いじゃなくなるというか……」


 サイゼで食べたエスカルゴ。最初はカタツムリ~って食わず嫌いだったけど、友達と何度も通って楽しい話をしながら食べてたら、全然苦手意識なくなったって感じ。


 あと、フォカッチャ神!!


「あぁ、それはあるかもね。食べ物って、誰かと食べたりして、いろんな思い出と一緒に思い出すよね。味だけじゃなくてさ」


 今日のこの日もきっと、思い出すんだろうな。

 巡屋くんとハッピーパンケーキを食べたこの日のことを。

 パンケーキを食べるたびに思い出す。そんな想像をした。


「あ、またパンケーキのことを考えていたでしょ」


「ち、ちがうよ!!」


 ちがわないけど。


「そう? 幸せそうな顔をしていたよ」


 ふふふ。


 にやけてたのが、ばれてしまったか。

 でも、そういうことにしておこうかな。


「まだかな、パンケーキ」


「きっと、もうすぐだよ」


 私はこれから運ばれてくるふわっふわのパンケーキのこと。

 今度は何のスイーツを巡屋くんと食べに行こうかなとか。

 まだ食べてないのに、そんな先のことを考えていた。




 たのしみだなあ。



 完


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