弐・会議(前)

会議の部屋の前に着いたのはいいのだが……。うるさい。どうして兄様達は、じっとできないのだろうか。私は襖を勢いよく開けて


「うるさいです、兄様達。私たちの家だからと言って大きな声を出さないでいただけます?」

「「「旅~~~~、聞いてくれよ~~~。」」」

「会議が終わり次第聞いてあげます。先に会議について話しましょう。」

「「「はぁ~い。」」」


この町には、本家の他に三ツの分家がある。明烏(あけがらす)家・烏有(うゆう)家・烏滸(おこ)家である。分家にも守り人が仕えている。それが私の兄様達である。明烏家には長男・河兄様、烏有家には次男・海兄様、烏滸家には三男・渡兄様、そして、長女であり末っ子・私が本家の烏木家に仕えている。別に私が優秀だから本家に仕えているわけではない。いまでもわからない。なぜ、旦那様と奥様は私を守り人に選んだのか。


「旅?どうした?元気にしてたか?久しぶりだな。」

「申し訳ございません、河兄様。少々考え事を…。」

「もう相変わらず固いなぁ。俺達の前だから言葉は崩していいんだよ!」

「……お言葉に甘えて。」

「で、もうすぐ黒点の儀だけど。そろそろ本家の子どものこと、教えてもらおうか。」

「…えぇ。」

本家・分家の烏は、黒点の儀を迎えた後に初めて民の前に姿を現す。それまで、「子が生まれた」以外のことを漏らしてはならない、姿を見せてもならない。

「おい!また、ぼーっとしてるぞ!」

「…ごめんなさい。」

「ハハッ!旅はいつもぼーっとしているな!先に分家側の話をする。三人が話し終わるまでにまとめとけ。だが、話は聞いとけよ。」

「ありがとう、海兄様。」

「どうってことねぇよ!」

照れくさそうに笑う海兄様。いつも笑顔だ。

「じゃあ、僕からね。烏滸家からは、儀式を受けるものはいないよ。だから、今年は民のほうを手伝うよ。」

「次は俺な。烏有家からもいない。民にまわるか…それか、気に食わないが''兎''に行くかだな。」

「''兎''から要請があれば俺がいくよ。明烏家からもいないし。海と渡は、民の黒点の方にまわってもらおう。」

「りょーかい。んで、旅だ。話せるか?」

「えぇ……。」


少し緊張しているが、大きく息を吸ってゆっくり吐く。

ゆっくり言葉を発した。


「金烏」


「…は?」

兄様達は時が止まったように動かない。そして、誰も話さない。聞こえなかったわけではないだろう。

「金烏がお生まれになりました。烏夜姫君。今年、黒点の儀へ参加されます。黒点の儀もいつも通りにはできないでしょう。私の、守り人の先生として兄様達に助けて頂きたいのです。」

「金烏か…。当たりなのか外れなのか。」

「これは…''兎''にはいけないなぁ。」

「旅ちゃん、これまでに何かあった?」

「話を遮るようで申し訳ありませんが、渡兄様。その呼び方やめていただけます?虫唾が走ります。」

「えぇ~かわいいでしょう~?」

「まぁまぁ、この話はあとでしよう。今は金烏について話そう。旅、金烏についてわかること、これまでのことをもう一度話してくれる?」

「ごめんなさい、河兄様。」

「大丈夫。俺たちは俺たちができることで旅を助ける。」

「ありがとうございます。金烏である烏夜姫様は今年の黒点の儀を受けます。ただ、金烏である以上通常の黒点の儀はではないと考えています。儀についてはこの会議の報告後に聞こうと思います。聞いた内容は次の会議のときに報告させていただきます。しかし、これまでの姫様は他の烏とは何ら変わりがない……と言いたいところですが。」

「旅にとって初めてが金烏か。」

「まぁ、金烏という情報が分家すら耳に入らなかったということは、特に問題はないだろ。」

「問題は守り人として、だよね。僕たちも金烏は初めてだけど、普通の烏のお世話はできる。たぶん、金烏は黒点の儀を迎えるまでは変わらないと思うね。」

「だったら―――」


兄様達は優しい。昔からそうだった。だからこそ、この優しさは…



苦しい

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烏は月を嫌う まみむ @teramisa0715

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