第14話 本気()
「わかった。もう死んでいいよ」
ゴリアンがその声を聞いたとき、すでに彼の視線から対戦相手の姿は掻き消えていた。
「ッ!」
さすがは冒険者と言うべきか、向かって左側から飛来した殺意にギリギリで反応し、その手の獲物で自らの首を守る。
しかし。
「ぐあっ!」
瞬きの時間すらも空けずに右側から飛来した攻撃に反応しきれずその腕に直撃をくらい、骨が砕けた感触とともに唯一の生命線である武器、ミスリルブレードを取り落としてしまう。その連撃は更に激しさを増し、左右から容赦ない剣の嵐が襲いかかる。それはあまりの衝撃にゴリアンが意識を失っては次の瞬間には痛みで目を覚ますほど。
全く目に見えない超高速の連続技。
しかしシノンとリムルにはその目に見えない連続技に見覚えがあった。
「「『ジ・イクリプス』…」」
そう。SAOに出てくる二刀流の最高位の
まず、剣の速度。その刀身が全く見えないほどの高速で剣を振るにはかなりの数の身体強化系魔法を重ねがけする必要がある。そもそも魔法戦を主体とするユエの身体自体には大した身体能力は備わっていないためだ。
次に狙いと威力の正確さ。ユエは、一番相手に痛みを与える箇所を狙って攻撃している。側頭部、上腕部、脇腹、鳩尾、金的、脛…。それらに正確に、しかしできるだけ気絶はさせない威力に抑えて、だ。
最初の一撃を除いて都合25回相手の身体に斬撃(木剣なので実際は打撃なのだが)を食らわせたユエは軽く後ろに飛びのいて左の剣を投げ捨て、右の剣を大きく引いて溜めを作る。隙だらけの行動だが、ゴリアンにその隙を突く余裕などあるはずがない。
もちろんこれは原作の『ジ・イクリプス』にはない行動である。本来ならば26回目と27回目の間にはそれまでの連撃と同じくほぼ時間差がない。だが、それはシステムアシストあってのこと。ユエには適用されない。自らの力で再現した『ジ・イクリプス』にちょっとしたアレンジを加えた。
飛びのいたユエの構え。それは――
「「『ヴォーパル・ストライク』」」
そう。片手剣単発技最高のダメージを叩き出す
まずシステムアシストなしでも
それに加え、システムアシストがないので
それが何を表すか。分かりきったことだろう。体力が続く限り、もしくは妨害されない限り無限に
もちろん相手にHPバーがあればこんな風に無限に『ジ・イクリプス』等を放つのが正解だろう。防御や被ダメージ時のショックで反撃は叶わず、本来反撃のチャンスである
とにかく今ユエにとって大事なのは相手のHPバーを削り切ることではなくできるだけ相手に痛みを与えること。
『ジ・イクリプス』はぶっちゃけ半分くらいただのパフォーマンスだ。
直撃すれば魔物の硬い革なんかも余裕で貫通する高威力の
直前、輝く小さな障壁によってユエの刺突は弾かれ――るのではなくその障壁ごとゴリアンの腹部に突き刺さった。
実はこれ、流石に殺人は…と人の心を取り戻した(?)ユエが自分で展開した超ミニサイズの『聖絶』である。それによって衝撃は分散され、剣先はゴリアンを貫くのではなく吹っ飛ばすに留まった。
………。まあ、凄まじい勢いで吹っ飛ばされたゴリアンがその身体を壁にめりこませてピクリとも動かないので留まったという表現が正しいのかは分からないが。
なにはともあれ、
Cランクゲス冒険者ゴリアン vs 無名の新人ユエ。その決闘の勝者は誰の目にも明らかだった。
Laughing Coffin 枯渇信者 @shamad
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。Laughing Coffinの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます