第13話 ギルド登録とテンプレ

書きたいことを全部書いてたら切りどころが分からなくなってめちゃくちゃ長くなってしまいました。ご了承下さい。

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先ほどの話し合いの後。シノン達とヒースクリフ達は落ち合う時間と場所を決めて別れて行動をしていた。シノン達は先に冒険者ギルドに行って冒険者登録を。ヒースクリフ達は街で情報収集をして、しばらくしてからギルドに行く手筈になっていた。その方がどちらのパーティーも等しくテンプレを味わうことができると考えたためである。


〜sideシノン達〜


ヒースクリフたちを別れてから。シノン達3人は早速冒険者ギルドの建物の前に来ていた。

先ほどガウェインに案内されてるときにも見た建物。木造の建物に、西部劇の酒場のような扉。っていうかそういう酒場にしか見えないが、出入りしている人間の格好が格好なのでただの酒場と思う人はいないだろう。

まあ、アニメとかでよく出てくるテンプレのギルドである。


「さあ、入りますよ」


シノンが緊張した面持ちで二人に声をかける。

もちろん、これから遭遇するであろうテンプレに心躍らせているが故の緊張なのだが、端から見ると初めて入る冒険者ギルドに緊張している可愛らしい少女にしか見えない。普段の調子であれば「緊張してるシノン様も尊い…」なんて言うユエも、「緊張しすぎですよ、リラックスしましょう」なんて言うリムルも、極度の緊張によってただ無言でうなずくことしかできていない。


上下がスッカスカなので扉の役割を果たしているかも定かではない扉にシノンが手をかけ、ゆっくりと押し開いていく。

そして3人の目と耳に飛び込んできたのは、多くの冒険者で賑わうギルド内と、元の世界での祭りを想起させるような激しい喧騒。

もう、さっきから3人の胸の高鳴りが抑えきれていない。

こんな状況で無口なのは、興奮と緊張のあまり声すらも絞り出せないからだ。

そんな恐ろしく緊張している3人はゆっくりとした生まれたての子鹿のような足取りで受付のカウンターへと向かう。


「こんにちは。仕事の依頼ですか?」

「い、いえ、冒険者として登録しに来ました…」


普段の堂々としている様子からは想像もできない、蚊の鳴くようなか細い声だ。


「えっと、お嬢ちゃん達、何歳?」


お嬢ちゃん達?ああ、そういえばリムル様の見た目は中性的な顔立ちだから女の子に見えても仕方ないか。


「私は17歳です」


言わずもがな、原作の設定上の朝田詩乃の年齢である。


「私は…確か323歳だったかな?」


ユエである。こんなこと言ったら嘘だと思われるかもしれないが、周りを見たところエルフっぽい冒険者もいたので問題ないと判断したのである。


は…16歳です」

「「ブフォッ!」」


緊張していたのも忘れて思わず二人とも吹き出してしまった。性別を間違われたのがムッと来たのか一人称がになってるし思いっきり年齢詐称してるし。まあ三上悟の37歳で答えてもリムルとしての年齢で答えても不自然だからだが。


「…。皆さん条件の年齢は満たしてますね。では、試験を受けていただきます。試験内容ですが、物理攻撃力の測定、魔法攻撃力の測定、実戦能力の測定になります。物理攻撃か魔法攻撃主体で戦うスタイルでしたらもう片方の測定はパスすることもできます。いかが致しますか?」

「じゃあ私は魔法なしでお願いします」


そう言ったのはシノンだ。GGOの世界に魔法なんてもんはない。そもそも魔法を使えないのだ。

しかし、それを聞いた受付嬢も周りで聞き耳を立てていた冒険者達もとても驚いた顔をしていた。…まあ、見た目だけではか弱い華奢きゃしゃな女の子が物理攻撃主体で魔物を仕留めると言うのだから当然だろう。


「…。わかりました。他のお二人は?」

「私達はどっちもいけますよ〜」


先ほどのリムルの言葉でわずかに調子を取り戻したユエがいつもどおりの飄々とした感じで答える。


「…では、試験場に案内しますので付いてきてください。私はアイリスと言います。気軽に名前で呼んでくださいね」


そう言ってカウンターの奥の扉の中に消えていったので三人もそれに続く。アイリスに続いて進んでいくと、彼女は階段を降りて地下に入った。当然三人も彼女に続いて地下に行く。


「「「おお〜〜」」」


しばらく降りた三人の目に入ったのは直径50mほどの巨大な円形の修練場。中では、数人の冒険者が立ち合いをしたり稽古をしたりしている。木人もくじんに向かって木剣を振り下ろしている冒険者もいる。

観客席のようなものもあるので、ここで試合なんかもやるようだ。


「こちらになります。ついてきてください」


そう言って彼女が三人を案内したのは修練場の端にあるいくつかの木人の前。


「まずは物理攻撃の試験となります。武器は何を使ってもいいので一番破壊力のある攻撃をしてください。身体強化系を含め、魔力を使うのは禁止です」


どうやら、それぞれが出せる火力を見るようだ。魔物に有効なダメージを与えられなければ話にならない。


「ではまず…シノンさん」

「はい」


彼女の呼びかけに短く答えてシノンが移動する。そして、伏せて二脚ボイパッドを立て、へカートⅡを構えて右目でスコープを覗き―――


「ちょちょちょ、ちょっと待ってください!そんなとこから攻撃するつもりですか!?」


彼女が頓狂とんきょうな声を上げるのも仕方がない。なにせシノンは、から狙っているのだから。その距離約60m。魔法攻撃無しだと、こんな遠くから狙撃できる弓使いはギルドでもトップの実力者しかいない。しかも、有効打となるとそんな冒険者たちでもかなり厳しいだろう。

実際、見た目麗しいシノンに注目していた一部の冒険者があきれたように笑っているのが視界に映った。

だが有効射程が1kmを超えるへカートⅡを構えるシノンにとってはおよそ60m程度無いに等しい。そんな彼女の言葉など意に介さず―――


ドッパァァン!!!


先ほどユニコーン型の魔物を撃ち抜いた時は平原だったのでかわいた音が鳴り響いただけだった。だが、ここは密閉された地下の修練場。全長1mを超える化け物ライフルから出た爆発音じみた銃声が反響し、その場にいた全ての冒険者と職員が思わず動きを止めた。そして、そんなシノンが放った銃弾は狙い違わず木人の眉間部分に着弾。その頭部を跡形もなく消し飛ばした。


…。


修練場全体が沈黙に包まれる。所々から聞こえてくるのは、『誰だあの子?』『なんだあの武器?』『めっちゃ可愛くない?』という声。


他にも、『あれ?物理攻撃の試験って言ってなかったか?』『アレってオッケーなの?』なんて声も聞こえてくるが当然問題ない。銃撃を行うに当たって魔力を使うわけがないし、弓の使用も認められている。更に言えば、某RPGの物理攻撃を反射すると定義された呪文テト◯カーンで銃攻撃も反射していた。


てなわけで王道テンプレの一つを体験したシノン。思わずにやけそうになるのを抑えて一仕事終えたスナイパーの顔を装ってユエ達のもとにもどろうとするが当然…


「なあ!オレ達のパーティーに入ってくれよ!」

「はあ!?抜け駆けすんなよ!俺らが先に目をつけてたんだぞ!」

「いえ、こんなむさ苦しい男はほっといて私達のパーティーに入らない?」


とまあこうなるのは当然で、シノンは修練場の中央付近で大勢の冒険者に囲まれてしまった。

当のシノンはと言うと、思いっきり王道テンプレをかました余韻に浸っているときにそんなことになったので困惑していまい、「あっ、ちょ、えっと…」と見た目相応の可愛い声を出して立ち止まってしまった。


「ちょっと皆さん、その子はまだ試験中で…」


と制止に入るアイリスを止め、シノンを中心とした人混みに向かって歩いてゆく影が一つ。


「おいお前ら。ウチのリーダーに何してくれてんだよ…」


その愛らしい見た目に合わないヤンキー漫画の主人公を彷彿とさせる言葉を吐き、あふれ出る魔力の波動にその美しい金髪と白い服のすそをはためかせ、その紅い双眸そうぼうを細め、全身から凄まじい殺気を放っているのは――


「え、ちょっとユエさん!?」


アイリスがそう呼びかけたとおり、言わずもがなユエである。


ほとんどの冒険者はその放たれた殺気から相手のヤバさを察してすぐに離脱した。変なプライドや欲に駆られず自分の命を守れる彼らは将来良い冒険者になるかもしれない。だがそんなことはユエには関係ない。忠告したのに怯む様子も見せずに未だ勧誘を続ける数人の冒険者。


「おい、その人から離れろ」


更に近づいて、さっきよりも数段迫力を孕んだ声で凄むユエ。先ほど離れていった懸命な冒険者の中には、頭を抱えて震えている者もいる。

だが悲しいかな。彼我の実力差を冷静に判断できない馬鹿は少なからずいるものである。


「おいお嬢ちゃん、今のは俺に向かって言ったのか?この子はもう俺のパーティーに入るって決まったんだよ。口出しすんじゃねえ」


『そんなのいつ決まったんだよ…あいつ馬鹿なのか?』とその場にいた全員が思った。

それはユエもであり…


「ほう…。じゃあ私はお前を殺してでもその人を奪い返してやろう…」


ユエがそう言うとその馬鹿な冒険者はくつくつと押し殺したように笑って、


「言葉遣いに気をつけろよお嬢ちゃん。俺はゴリアン。これでもCランクだ。そんな俺と決闘しようってのか?甘ったれてんじゃねえぞ」


彼は最後の一言に軽い殺気を込めて言い放ったのだが、それは当然ながらユエには届かず、遠巻きに見ている観衆ギャラリーもユエの圧倒的な殺気に飲まれているので今更。謂わば、蛇、いや、龍に睨まれた蛙が調子に乗ってわめき散らしている構図にしか見えないのだ。


「…ん。なら決闘しよう。シノン様は勝った方のパーティーに入るってことで。誰か木剣ちょうだい」


急に殺気を引っ込めたユエが観衆ギャラリーに向かって言う。我に返った観衆ギャラリーの内数人が弾かれたように走り出し、壁に立て掛けてあった木剣数本がユエの足元に置かれる。「どうぞ…」と言って剣を差し出す彼らに向かってユエは花のように優しく微笑んで、


「ありがとう」


と言うと、さっきまで自分達に思わず死を覚悟させるほどの殺気をぶつけてきた相手に対して思わず頬を紅く染めて恍惚の表情をする。とはいえそれは一瞬のことで、すぐに我に返って後ろに下がる。


ユエが足元に並べられた木剣のうちを持ち上げて何度か振って使い心地を試しているとゴリアンの準備もできたようで、白い金属の大剣を構えた男がこちらを睨んでいた。


「くっくっく…たかが木剣でこのミスリルブレードに勝てると思ったか…?」


ところどころから「卑怯だぞー!」「お前も木剣使えよー!」と声が上がるが、そんなのは無視して何故かいきなり襲いかかってきた。

決闘って言ったのにそんなことして勝っても卑怯者のレッテルを貼られてギルド内で肩身の狭い思いをするだけなのになあ…と思いつつ相手の上段斬りを見切ったユエは軽く身体を右に捻って回避した。ユエの身体ギリギリを掠めた大剣は修練場の床と激突し、砂煙を上げた。そんな隙をユエが見逃すはずがなく、左手の木剣を逆手にもってその柄で鳩尾を殴る。だが。


「そんな弱い攻撃効かねえなあ〜」


当の本人は顔色を一切歪めることなくニヤリと笑い、大剣を横なぎに繰り出した。大きく後ろに跳びずさって回避するユエ。そこにミスリルブレードの追撃が襲いかかる。

実力差が逆であると分かっていても、端からは大柄な大人の冒険者が幼い少女をイジメているようにしか見えない。まあ、攻撃している当の本人もそんな気分でやってる訳だが。

そんな攻防(?)が数合続いた後。急にゴリアンが動きを止め、


「おい、さっきの威勢はどうした?逃げ回ってるだけじゃ勝てねぇぞ?」


と指をクイッとして挑発した。

それに対してユエはその言葉を待っていたと言わんばかりに―――


「わかった。そろそろ死んでもらっていいよ」

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