第12話 ギルドの規則とパーティー分け

「人数制限か…確かに失念してましたね…」


先のクラインの「冒険者のパーティー人数は四人まで」という衝撃の事実を受けてのシノンの言である。


「なら形だけ別で登録するだけして一緒に行動すればいいのでは…」


と提案するザザ。だが…


「それがダメなんだよ。依頼主の要望や募集人数の関係で一緒に受けた依頼でなければ、緊急時でもないのにパーティー外の人間と協力するのはギルドの規則で禁止されている」


クラインが残念そうに首を振って答える。


「なんで――!」

「そりゃ、強力な助っ人に強い魔物を倒してもらって、手柄を自分たちのものにしてランクアップしようとするような輩がいるからだよ」

「ッ!僕たちはそんなこと――」

「ああ、普通はしない。でもな、過去にそれをやって全滅したパーティーがあんだよ。お、そろそろメンバーとの待ち合わせの時間だわ。じゃあな」

「ちょ、ちょっと!」


ザザが噛み付くように言うが、そんなの意に介さずクラインは行ってしまった。「どうせなら全部教えてくれてもいいのに…!」と肩を怒らせるザザの肩をシノンが優しく叩く。


「彼だって彼の仕事があるんですからそれを邪魔するのは駄目ですよ。それに、人数とかの規則のことを教えてくれたのは彼の親切心からなんですから彼に対して怒るのはお門違いですよ」

「…ですが…」

「あなたの懸念していることは分かります。私達に捨てられるのではないか、とそう考えていますね?」

「…」

「確かに、このメンバーの中で一番弱いのはザザさんです。でもそれは偶々元になったキャラクターが比較的弱かっただけで、あなたは悪くありません。みんなで出来ないのならギルドに登録するつもりもありませんし、いざ登録するとなっても強さ云々でメンバーを決めるつもりもありません。もし冒険者のパーティーメンバーとして外さなければいけないとなったら、一番協調性のないユエさんですかね。でもあの人はしっかりと手綱を握ってないと国が傾く事態になりかねませんからね、私も抜けることになると思います。なので、少なくともあなたを外すことはありませんので安心してくださいね」

「う…うぐっ…」


シノンの優しい言葉に、ザザはいつの間にか顔を抑えて泣いてしまっている。

…傍から見ると、メソメソと泣く髑髏の仮面の男を15やそこらの女の子が慰めている非常にシュールな状況である。


「…お二人とも道のど真ん中で何やってるんですか…?」


それは、着替えを終えて戻ってきたユエも同じことだった。


「あ、ユエさん大事なお話が…」

「…分かりました。なんですか?」


そこは『お前もだろ』とかのツッコミを期待してたんだけど…と思いつつも、誰もノッてこない時点でかなり重い雰囲気なのを察したユエ。

そのユエにさっきクラインから聞いたギルドの規則に関する情報を伝えるシノン。ユエは一通り聞くと納得したように頷いて、


「なるほど。じゃあ精神干渉系の魔法で規則を変えさせるか…なんて冗談を言う雰囲気じゃないですよね。いや、シノン様分かってますからちょっと抑えてください」


状況を察した上でもまだ軽口を続けるユエに軽く殺気を当てるシノン。ちなみにさっきのクラインが同じ強さの殺気をぶつけられようものなら気絶か失禁確定である。


「さて、取る方法は3つですかね。一つ、4人で登録して二人は支援に徹する。これは希望者がいないと思うので論外ですね。二つ、3−3で2パーティー登録する。討伐とかの仕事を一緒にやるのは無理ですが、さすがに別パ同士でのアドバイスのし合いなんかは禁止されてないと思うのでそれを突いて仕事以外で一緒にいればいいんです。ですがこれだと、メンバー内で亀裂が生じる事態にもなりかねません。三つ、登録なんかしないで気ままに魔物を討伐したりして回る。これでもいいんですが、冒険者とのいざこざとか素材の買取なんかが面倒になりそうですね」


ペラペラと説明するユエ。他のメンバーも大体は同じ意見のようで、うんうんと首肯している。


「となると、2つ目の案が一番現実的ですね。皆さんも異論無いようですしそうしましょうか」


みんなの反応を見たシノンがそう言う。


「形式上仕方なくパーティーを二つに分けますが、もちろん決別するわけではないのでギルドの規則に触れない程度にみんなで一緒に行動しましょうね」


先ほどシノンに捨てられることを危惧していたザザのカバーをする目的での発言だ。


「どう、分けるかですが…」


シノンがそう言うと皆一様に黙りこくってしまう。皆もう頭の中で答えはとうに出ているのだが言い出しにくい、そんな状況だ。だが、


「よし、俺と司教サマとザザ、シノン様とリムル様とユエさんの二つが妥当だと思うんだがどうだ?」

「ヒースクリフさん!?」


シノンを含め、みんなが驚いた。だって元々『Laughing Coffin』のメンバーは皆シノンが大好きで、見捨てられるかも…となったらザザさんのように泣いてしまうようなメンバーだっているくらいなのだ。


「さっきのクラインって奴も言ってたが、ここは好みだとか忠誠心だとかの問題じゃなく、強さとかの能力で分けるべきなんだよ。元になったキャラクターの性能的に、俺らじゃシノン様を助けるには力不足だ。俺はシノン様を一番に考えてる。だからこそ自分は身を引くべきだと思うんだよ」

「「「……」」」

「ヒースクリフさん…」


非常に聡明な意見だ。自分の能力をしっかりと把握し、私欲に駆られず冷静な判断が出来る。


「まあまあ皆さん、異世界に来てまでそんなしみったれた顔しないでいいじゃないですか!永遠の別れってわけでもないんですし、基本的にはなんにも変わらないんですから、ね?ヒースクリフさんがそう言ってくれてることですし、他に案もないんでしょう?ならそれで決まりでいいでしょ…」

「空気を読め、ドアホ!!!」


ゴチーン!


「いったぁー!!」


シノンのゲンコツを脳天に喰らったユエが悶絶する。


「はあ…ユエさんの暴走を止められるの、多分私だけですからね…ヒースクリフさんの意見の通りにしましょうか」


先ほどとは打って変わってみんなうんうんと首肯している。見ようによってはユエのおふざけのおかげで場が和んで話が纏まった、と、言えなくも、ない。

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