「駄菓子屋」「マウス」「飲む」
神様とはぐれた遠足の帰り道すがら、ぼくは一軒の駄菓子屋で一匹のミッキーマウスに出会った。諸般の事情から、彼は一個の観念的な存在であることを断っておく。ごく抽象的な事物であると言ってもよい。
「ここの店主のおばあちゃんがどこかに行っちゃいましてね。店を畳むわけにも行かないので、こうして私が店番をしているというわけなんです」
ぼくは頷きながら、氷のようにキンキンに冷えた瓶入りラムネを受け取る。そうすると季節はいつでも気前よく夏への扉を開いてくれる。細かい炭酸の泡が喉を心地よく刺激しながら通り過ぎる。ごくりごくり。
観念的かつ抽象的なミッキーマウスは、薄暗い屋内から眩しい夏の日の路地を遠い目で眺めている。彼はもう戻らないおばあさんを待ち続け、ぼくはとうに飲み干したラムネ瓶を手に神様の帰りを見届けようとしている。
(練習帳)きまぐれ長門草紙 長門拓 @bu-tan
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