エピソード1‐2
「着いたな」
俺は、目の前にある人間の身長の何倍もの高さを誇るバカでかい扉の前に立っている。
扉には、国の旗にも描かれている双子の剣をもった男女と龍の彫刻が彫られてあり、周りに眩しいくらいの装飾が施されているため、荘厳な雰囲気を醸し出す。
その扉の左右で、この先の空間を守る騎士が2人立っているため、両者をチラリと一瞥する。
すると、向かって右側の騎士が口を開く。
「所属と名前、ご用件を」
答えないと進めないので、素直に応じる。
「ツヴァイヘルム王国第一王子、アルフレッド・KB・ツヴァイヘルム。国王陛下の招集により、謁見を賜りたい」
淀みなく言い切ると、もう1人の騎士が近づいて来て、こちらのボディチェックを行う。
「問題ありません。それではお入りください」
騎士がそう言うと、扉が音も無く静かに開き、その先に開けた空間があることを認識した。
そして、謁見の間に足を踏み入れてしばらく歩き、所定の位置まで進むと、跪く。
隣には先に来ていたケヴィンがいて、視線を少し横に逸らすと、同じように跪いているケヴィンと目があった。
「2人とも、面を上げよ」
しかし、謁見の間の玉座に座る人物から声が掛かったため、すぐに視線を前に戻して顔を上げる。
目に入って来た人物は3人だ。
まずは向かって正面、このツヴァイヘルム王国の国王にして、俺たちの親でもあるクロヴィス・KL・ツヴァイヘルムだ。久々に顔を見たが、短く刈り込んだ輝く金髪、ケヴィンよりも薄い藍色の瞳をもち、そしてなによりも、筋骨隆々であるのが服の上からでもわかるほどにがっちりとしていて、存在感がある。王位について数年と言ったところだが、しっかり貫禄が出ていて、この人が王と言われても違和感が全くない。
国王のミドルネームがなぜ俺たちと違うかというと、王族は男子ならばK、女子ならばQを必ずミドルネームに持つのだが、王族に嫁いだ妃がもっていた旧姓のミドルネームからも文字をとってK〇となるためである。俺たちの母親であり、国王の正妻である王妃の現在の名前はクロエ・QB・ツヴァイヘルムであるが、旧姓はクロエ・B・ベルシュタインであり、そこから俺たちのKBが付けられている。すなわち、国王の母親、俺たちからすると祖母にあたる人物はミドルネームにLをもっていたという事だ。
次に、視線を左に送ると、国王とは対照的な細身の初老の男が目に入る。彼もこの国有数の権力者であり、俺も良く知っている人物だ。
名前はパトリック・A・クロフォード。先ほど俺の執務室で騒いでいたエリシア・A・クロフォードの実の祖父であり、この国の宰相を務める傑物だ。最近の悩みは、孫が元気すぎることと、自慢の灰色の髪が薄くなってきたことらしい。
最後に右手の人物。国王に負けず劣らずの筋肉がついていて、一人だけ帯剣しており、明らかに護衛だと分かる。
彼の名前はエドガー。ただのエドガーである。貴族出身ではなく平民出であるものの、腰に下げた剣と自らの魔法を合わせた魔法剣術を用いて、近衛騎士団の団長にまで上り詰めた実力者である。どの程度の実力かというと、このエドガーにタイマンで勝てる人物は国内にはいないとさえ言われるほどだ。
本来はそれほどの実力があれば、騎士として取り立てられたときに名字を賜るのだが、どうしても本人が固辞するために現在までずっと、名前はエドガーのままである。
国王は俺たち二人の顔を一様に眺めてから口を開いた。
「アルフレッド、ケヴィン、急に呼び出してすまんな」
「「いえ」」
「うむ、こうして再び会えたことを喜ばねばならんのだが、いかんせん今はやるべきことが多くての~」
「それで、何か御用があって呼び出したのでしょう?お早めにお願いします」
家族の感動の再会など正直あまり興味もないため、先を促す。
「おお~、そうであったな。では宰相、説明を頼む」
「かしこまりました。それでは私が説明いたします。今回御二方に来て頂いたのは、これからの王国の未来を決めるためでございます」
「「未来?」」
「はい。国王陛下がまだご健在とはいえ、次期王位継承者が明確に決まっていないこの状況はあまりよろしくないのです。我が国にはまだ王太子がおりませんので」
ここで俺は、宰相が言いたいことをすべて理解したため先手を打つ。
「ならケヴィンで決まりだな。国民の評判、本人の気質を考えても王太子に適任だろう」
すると、ケヴィンが驚いた表情になって、
「えっ?兄さま?第一王子は兄さまで、継承権の順位的にも兄さまが王太子になられるべきではないのですか?」
「アホかお前は。俺とお前は双子、しかも王になるための条件はお前の方が揃えている。ここで俺が王太子になったとしても批判が殺到するだけだ」
「でも…」
「でももへったくれもない。お前が次代の王国を引っ張っていくんだ」
「僕はそんなことが出来るような器の人間じゃないよ…」
「人間為せば成る。自分で全てが出来なくても、周囲の人間を頼れ。王とは人を上手く動かしてこそだ」
ここで宰相が止めに入る。
「まあまあ、御二方とも落ち着きなされ。アルフレッド殿下の言い方は身も蓋もないですが、確かにその通りなのでございます」
「だろうな」
「はい。国内での支持はケヴィン殿下の方が優位であることは紛れもない事実。国王陛下や私たちとしても、ケヴィン殿下が王太子となられるのが最善であると考えております」
「じゃあ…、兄さんはどうなるの?」
ケヴィンが心配そうに聞く。この状況で人を思いやれるということは、人としては優しき心をもち、良いことなのかもしれないが、統治者としては致命的なミスにつながりかねない。
それはこれから父上や宰相、そしてケヴィンの妻となる王太子妃がうまくケヴィンを導いてやってくれるだろう。
ケヴィンが王太子になったら、晴れて俺も自由の身というわけにはいかないが、それでも今よりはずっと動きやすくなる。所詮は王太子のスペア。さらには、まだ下にも王子がいるため、出番は無くなったに等しい。
俺は国王に向き直って、やや緊張を覚えながらも、心に溜めてきた言葉を言う決心をする。
「国王陛下、私よりかねてからのお願いがございます」
「ん?なんだ?アルフレッドよ」
「私に暇を与えてくださいませんか?」
この言葉に対して、ケヴィンとエドガーは固まる。
「兄さま!?それは、王族としての立場を捨てるという事ですか!?」
「ああ、その通りだ」
「何故ですか!兄さまはこの国の発展に大きく貢献してきたではないですか!」
ケヴィンがこんなにも声を荒げるのを見たのは何年ぶりだろうか。小さい頃に遊んで転んだときや悔しくて泣き叫んでいたときかもしれない。
尋常ならざるケヴィンの様子に、それでも俺は構わず言う。
「俺は王族を辞めようと思っている。ケヴィンが言う通り、俺はこの国を栄えさせたかもしれない。しかし、それを知るのはここにいる人間と、あと他に数人といったところだ。国民はケヴィンこそが次の王であると思っているし、俺のやってきたことも知らない。ならば、俺は無駄な争いの種を残さずに居なくなるべきだ」
「それは…ううぅ」
「納得できなくてもしろ。これが兄として出来る最大限の助言だ」
「分かった!兄さまの偉業を世に知らしめれば良いのです。そうすれば兄さまが王族を辞めなくても済みますよ!」
「却下。それこそがもっとも危惧すべき事案だ。俺を担ぎ上げようとするバカが騒ぐ」
「でもでも…」
「いい加減にしろ、ケヴィン。つべこべ言うんじゃない」
「お前たち、落ち着け」
王よりストップがかかる。
「ワシから言いたいことはアルフレッドと同じだ。王族たるもの、まずは国の安定を第一に捉える必要がある。流石に暇を要求するとは思わんかったがのう、なあ宰相?」
「そうですな。ですが、それも一つの案ではあります。しかし、流石にそれではアルフレッド殿下がかわいそうでありますれば、ここで提案が」
宰相は、政界を潜り抜けてきた狸親父としての顔を出す。
これはろくでもないことを言い出すなあ…と薄々感じた。
「ケヴィン殿下には、王国にある王立ヘルムホルツ学園に通っていただきます。そして、アルフレッド殿下には、大陸中央にある学園都市シュヴァルツに行って頂きます」
「は?学園都市?」
「そうでございます。ケヴィン殿下は国政を学び、国内貴族と交流をもっていただきます。対して、アルフレッド殿下には、各国の才能が集まる学園都市で切磋琢磨して頂きたいのです」
「なんで俺がそんなとこに…」
「かの学園都市は様々な情報や技術が行き交い、この大陸の中で最先端の文化を学べますよ」
「それはそうなのだが」
「大丈夫です。アルフレッド殿下はこの王国を100年は進歩させたと私は思っております。実際、殿下の発明や新しい魔法理論はツヴァイヘルム王国のみならず、大陸中の国々で活用されているのですよ」
「それは王族の身分を隠して入学することはできないのか?」
「できます。しかし、殿下の光る髪を見れば一発でバレてしまいますが」
「それならば問題ない。魔導具で隠せばいいだけだ」
「なんと!?そのような魔導具を!」
「ああ」
「それならばなおさら問題無いですな」
話がまとまってきたのを見計らって、国王が話しかけてくる。
「アルフレッド、それで?肝心の返事を聞いとらんが」
「分かりましたよ。行けばいいんでしょ、行けば」
「そうかそうか、フハハハハハ!息子たちよ、活躍を期待しているぞ!」
こうして、俺の大陸中央行きが決まった。
クルー・トゥ・ザ・ワールド 鉄人 @Tetsujin
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