片想いとタブレット

 俺はその日の夜、自分の部屋で昼間にもらったタブレットを眺めていた。袋の中に3粒入っている、赤紫色の粒。

 これを飲めば過去に戻れる。改めて考えるととんでもない話だ。どんな映画や漫画でも、そんな設定のものは見たことがなかった。須藤さんの言葉を疑っている訳では無いが、簡単に鵜呑みに出来る内容ではないのも確かだ。


 その須藤さんからは、1週間の猶予をもらっている。だが考えたところで、その間に奈良崎を探し出す方法が見つかるとも思えなかった。

 もしギリギリまで悩んだとして、その1週間は落ち着かずにモヤモヤとしたまま過ごしていくだけで、他の解決策が何も浮かばないということが容易に想像ができてしまう。


 胡散臭いことは分かっている。だが今はそれを信じるしかないのかもしれないとも思っていた。

 実際、依頼に来ているということは、奈良崎の家族も彼女を見つける方法をいくつも探して、その上で方法がこれしか見つかっていないということなのかもしれない。警察も探偵もあてにならないようだったから。


 であるなら、俺がそんなに悩む必要もあるまい。俺が断わっても他の人が代わりに探しに行くというのなら、俺が探しにいって俺が見つけてやつ。奈良崎を助けてやるんだ。って、俺は何かの見すぎかも知れないな・・・。


 とりあえず、薬を手のひらに出してみた。ただのサプリメントにしか見えない。だが、やはり色が赤紫色というのは、おどろおどろしいようでなんだか不気味である。こうやってまじまじと見てしまうと飲むことが躊躇われる。

 本当に大丈夫だろうか。タイムスリップ出来るのか?副作用はないだろうか。最悪死んでしまうのではないか?そうやって考えてから見ると、薬の赤紫が血の色にも見えてしまう。


 何となく考えてしまう。もし死んでしまったらどうしよう、と。何か思い残すことはあるだろうか、と。


 ・・・。


 思い浮かばなかった。両親が悲しむとか、まだ出来てないあれやこれやが頭をよぎったが、どれも心残りだとかそんな大層なこととは思わなかった。


 なら、やってみよう。悩んでいても仕方ない、って、さっきも同じようなことを思っていたのに、そんなことをまた考えてしまう。まだ、自分の中で踏ん切りが付けきれてなかったのだろう。


 1回大きく深呼吸をしてから、1粒ずつ口に入れ水で流し込む。

 かなり苦い。『良薬は口に苦し』とも言うが・・・。いや、果たしてこれを"良薬"と言っていいものかどうかは分からないが・・・。


 全部飲み終わって、少し経ったが特に感覚にかわりはない。鏡で見ても見た目に変化がないことを確認した。確認を終えると、なんだかだるくなって眠くなってくる。1杯水を飲んでから電気を消して体を横にした。


 オレンジ色の電気が無音の部屋の中で、頭の中を色々なことが頭を巡って眠ることができない。

 だから意識的に考え事をしてみる。


 奈良崎の両親が、奈良崎をことを覚え続けていられたのはどうしてだろう。両親だからだろうか。本当のルートではないからだろうか。

 両親と、俺以外で誰も知っている人は居ないのだろうか。それを確かめる術はないのだろうか。

それにやはり、彼女の両親以外で俺だけが知っているという状況と言うのは違和感がある。なんで夢に出てきたのか。SOSならば、なんで俺だったのか。タイムスリップ出来れば、全て分かるのだろうか。


 少し経つと頭痛がしてくる。そんなことを考えていたからだろうか。

 もう考えるのはよそう。そう思ったのも束の間、俺はその時何を考えていたのかも忘れ、夢の渦に飲み込まれていた・・・。

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タイムカプセル ~あなたは、私を覚えていますか?~ @S716

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