タイムスリップについて
「この世界にはルートと呼ばれるものがあると言われている」
俺は須藤さんからタイムスリップについての説明を受けている。なんの予備知識もない状態では、タイムスリップするもしないも決められないからだ。
「ルートは、進んでいく道筋を表していて、目には見えない。大袈裟にいえば僕らの人生を簡単に表現したものって感じかな。こんなフローチャートをイメージしてもらうとわかりやすいかもね」
須藤さんは、奥から引っ張り出してきたホワイトボードに絵を書いて説明してくれている。
フローチャートとは、物事の条件によっての同じことを繰り返したり、進路方向を変えたり、それをまた繰り替えしたり、といった作業手順や流れをわかりやすく表現した図のこと。本来のものはプログラムや機械に使われるものだが、説明するのに丁度良いから例えとして使うらしい。
須藤さんは学生の頃からタイムスリップやタイムマシンの研究していたそうだ。
ということは、少なくともその頃にはタイムマシンはあったということなのだろうか。
「奈良崎さんはこの条件や選択肢の中で、謝ったルートへと進んでしまったのかもしれない」
須藤さんの推測では、何らかの原因によって起こったイレギュラーによって、本来なら生まれるはずのない分岐が生まれてしまい、奈良崎はその分岐へと進んでしまったのではないか、と言うことだった。
その何らかがなんなのかはわかっておらず、特に今回の様な場合は特殊な事例のようで、調べている中で前例がない事のようだった。
「イレギュラーの回避方法は正直分からない。どこを指してイレギュラーだ、というのかも今の段階ではね」
須藤さんも頭を抱えている、と言った様子だった。
いつもの依頼ならば、依頼された部分の選択肢の変更をし別のルートへ導くまでが仕事で、そのあとの事には一切関与しないとのこと。そのルートもある程度決められた範囲内での変化の為、今回の様なイレギュラーが起こることはないらしい。
だが、今回の場合は奈良崎の選んだ選択肢を変えた上で、少なくとも
「だから、その薬を渡したんだ」
先程見たマシンは、限られた範囲の日付の間でしかタイムスリップが出来ないらしい。今回の件の様に期間がハッキリしてない内容の場合は使えないのだそうだ。
そう言われて、改めて薬を見る。
俺にどうにかできるのか?戻れるのかまず怪しいのもそうだが、戻れたとして何が出来るのだろうか。
奈良崎がなぜ居なくなったか、それが分かったとして救い方までわかるのか。救えないのだとしたら―
俺が行くより、タイムスリップをするのに相応しい人がいるんじゃないだろうか。そんなことが頭をよぎる。
「まぁ、なんていうか、大まかにいえばそんな感じかな」
そこまで話終えると、須藤さんはコーヒーを飲み一息つく。
なかなかに複雑で理解をするのに時間がかかる話だ。ふぅー、と俺も一つ息を吐く。
「さっきも言ったけど、『君が良ければ』だから」
悩んでいることがわかったのだろう、念を押すように言ってくる。
本当なら行ってほしいのだろうけど、そういうには見せない様に言ってくれている気がした。
―ガタン。
不意に部屋の外で音がした。
泥棒か?しかし、須藤さんは特に気にしている様子はない。聞こえなかったのか?いや、そんなはずはないと思うのだが・・・。
「今、音がしませんでした?」
「ん?あぁ、うちで働いている子が帰ってきたんだと思うよ」
須藤さんは事も無げに言う。
「他にも働いている人いたんですか?」
てっきり須藤さん1人でやっているのかと思っていた。そのくらい生活感がなかった。
「君と同じくらいの年の女の子が1人ね。多分依頼から戻ってきたんじゃないかな?」
俺と同じくらいの年でこの仕事をしているのか。しかも女の子かぁ。
俺の中にはなんだかよく分からない感情が渦巻いている。
「とりあえず君もそろそろ帰らないとだよね?」
言われて時計を見ると、もう17時を回っていた。
「そうですね」
もう時期両親も帰ってくる時間だ。
帰り道も須藤さんは家の近くまで送ってくれた。その道中、俺は心の中で、"タイムスリップへの不安"と、"奈良崎を助けられるかもしれない"という微かな希望とを天秤にかけながら、どうするべきか悩んでいた。
「まぁ、無理に飲まなくても良いから。こちらで調査して何かわかれば、ちゃんと報告するし」
車を降りようとしていると、優しく声をかけてくれる。
「わかりました。色々とありがとうございます」
タイムスリップだとか、タイムマシンだとか胡散臭いと思っていたが、須藤さんは優しくて良い人だと思った。
俺は、走り去る須藤さんの車を見送ってから家に入った。
家にまだ誰もいなかったから、ポストに入っていた鍵でドアを開けてから入った。
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