タイムスリップと片想い

「うーん、そうだね。僕の想像だけれど、それって奈良崎さんからのSOSだったんじゃないかな」

「SOS・・・?」

 どういうことだ?SOSということは、何かの事件に巻き込まれたのか?だとしても、どうして存在自体が消えてしまったんだ?

 それにもしそうだとしても、何でその相手が俺だったのだろうか。


「当時、君たちはどういう関係だった?」

「どういうって、ただの友達ですが」

 とはいっても、最後の方はろくに会話もなかったし友達ですらなかっただろうと思う。"ただのクラスメイト"だ。


「片想いとかは?」

「ま、まぁそれは・・・」

 改めて聞かれると気恥ずかしい。

「そ、それと今回の件になんの関係が?」

「いや、可能性の話なんだけれどね。君が一方的に好きなだけで夢に出てくるものかな?」

「そりゃあ、出てくるんじゃないですか?」

 好きな子との妄想は非モテ男子の得意技だ。今回の件は別にしても、夢に出てくるのは何ら不思議ではない。ただ今回はそれが、4年も前の相手だっただけのことだ。


「それはあくまでも、君が彼女のことを思ってていたからだろう?」

 須藤さんの出した仮説は、俺は奈良崎のことを忘れていて、彼女は意図的に俺の夢に出て俺に、彼女のことを思い出させようもしたのではないか、と言うことだった。

「君と彼女が卒業してからだいたい4年くらい経っている。そういう関係だったとかならともかく、それから一切連絡を取っていない、会ってもいなかった相手が、唐突に夢に出てくるかな?」

 そう言われると、妙に納得してしまいそうになるが、それは別にありえない話じゃない気もする。

 しかし、成人式も同窓会の日程も急に決まったわけでもなく、半年近く前から予定されていた。その時に俺は彼女のことを思い浮かべなかっただろうか。夢を見なかったのだろうか。それを思い出すことは出来ない。

「それは、まぁ…」

 だが、奈良崎が俺に好意を抱いていたというのだけはありえないだろう、というのが俺の見解だった。俺に思い出させようとする意味がわからなかった。俺でなくても良いのではないか?


 奈良崎は贔屓目に見ても美人だった。中学生にしては少し大人っぽくて、でも話すと年相応であったり、時々子供っぽかったり―

 そんな所に、俺は知らず知らずのうちに惹かれていったのだろう。でも、きっと彼女からしたら、俺のことなんて眼中にすらなかっただろう。


「やっぱり、過去に戻って見るしかないか」

 須藤さんは半ば自分に言い聞かせるように呟いた。

「彼女がいなくなったという時まで遡って、いなくなった理由を探すしかないのかもしれない」

 現実味のない話しだが、実際のところはそれしか方法がないのだろうか。


「君が良ければ、だけど」

 やはり、タイムスリップするのは俺なんだな。

 タイムスリップなんて全く信じていなかったし、今も変わっていない。だが内容を冷静に整理していくと、タイムスリップが出来ると仮定した上で、その方法しか現時点はあてがないのかもしれない、とも思ってしまう。


 もし本当にタイムスリップ出来るならば、当時の奈良崎に会えるだろうし、真相を掴める可能性はかなり高くなるだろう。助けることだって出来るかもしれない。 だからといって即決できる内容でもない。


「少し考えます」

 俺がそう答えると、

「わかった」

 須藤さんは優しく微笑むような表情でそれを了承する。


 でも、半信半疑ではあったが1歩前進したような気がしていた。だからか、俺はどこかほっとしたような気持ちでもあった。

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