本当はここからエロくなるはずだったんだ。多分。

布団を一つ置ければ良いと言うように、几帳に挟まれた空間は狭いものだった。

 よく手入れされた板の間に等間隔に並んだ几帳が延々と続く。涼やかな白の帳に垂れた五彩の風帯だけが、ほのかに大女神の神殿らしさを漂わせていた。仕切りの中には布団一枚と娘がいる。

 汚れを知らぬ乙女が。

 通路を彷徨い歩き、品定めをする参拝者達が疎らに見えた。

 僕もまた、彼らの内の一人でしかなかった。

 何とはなしにに視線を巡らせ、刹那、まだ十二、三程であろうか、神秘的に美しい肢体が目に入った。

 彼女は此方をチラリと見て、微かに唇を歪ませ、ぎこちない微笑を浮かべたような気がした。


 幼げな目尻に朱い巫女の印が香っている。


 その鮮やかな色はきっとまだ此処に来たばかりなのだろう。何億光年に一度のような正に奇跡のような邂逅だった。

 彼女はきっと明日にはいない。

 入場券代わりに買わされた銀色の小さな守護女神像を投げ掛けて、眩しいように白い下肢の上にキラキラと落ちていくのが、強烈に目に焼き付いた。

 銀色の小さな像が白い太腿に吸い込まれていったのを、惚けたように見守るしかなかった。

 ハッとして声を掛ける。

 今この瞬間だけ、名も知らない彼女の肢体は僕のものだ。

 例え、帰れば彼女の名を呼ぶ婚約者がいて結婚するのだとしても。台詞は少し震えていた。


『大地母神の御名に於いてお相手願えますか』


 台詞か、呪文か。


 少し不安そうに、庇護欲をそそるような様態でこくりと頷かれ、瑞々しい少女の腕が誘うように動かされる。

 濃い青か、藍色か、垂れ目がちの目は少し不安そうに潤み、見事に美しい曲線を描いた乳房が一点の染みもなく純白に輝く。

 少女の柔らかな日溜まり色をした頭には鮮やかな頭飾りが載っている。

 硬い紙で扇型の型枠を作り、色とりどりの糸で扇面を虹のように彩り、朱く大ぶりの短い房を幾つも垂らす。

 通過儀礼のみに使われる特殊な冠が、彼女が此処にいる理由をこれでもかと主張する。

 僕は耐えられないような衝動に襲われて、柔らかい乳房を揉み拉き、溌剌とした淡い色の唇に口付けた。

 金色こんじきの細く長い髪の毛が眩しい純白の肢体を卑猥に彩り、互いの汗が流れて、喘ぎ声が空気を震わせる。


 全てが終わってから、彼女を一瞥してみると、どこか少女ではなくなっていた。

 完全に少女でなくなった訳では決してなく、殆ど少女の中にナニカ芽生えた気がした。


 その一瞥を最後に僕と彼女は別れた。


 全く異なる人生が聖域の中でだけ溶け合っていた泡末のような一時は、衝撃的な体験となって僕の中に刻まれた。

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あらすじを全て書いたけどそこで終わってしまった残念な作品達。 ののの。 @jngdmq5566

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