松屋のごろごろ煮込みチキンカレー

熊本県の外出自粛要請が緩和されつつある。

いよいよ疫病との戦いも新たな段階に進むこととなった。

それならば、と気が付けば始まりの地に足を運んでいた。


そも、この随想は松屋のシュクメルリ定食に衝撃を受けて考えたものである。

繁忙期と重なったためにその時は文にならなかったが、その想いは今でも継がれている。


家に帰り、ウィスキーソーダをノンロックで作る。

まずは生野菜を胡麻ドレッシングで平らげ、匙という名の聖剣でハンバーグの大地を抉る。

ブラウンソースの聖域は薫香の浸食も受けず、堂々と君臨する。

無論、ここに白米を投じれば替え難い英雄となる。

これまでにジョッキが二杯空くのも致し方なしである。


既に足元が覚束なくなるほどに打ち込まれた身に、スパイスのかち上げが脳を揺さぶる。

負けじと大ぶりの鶏に喰らいつけば、旨味の逆落としが見事に決まる。

立ち会うには不利と下がろうにも既に心の足は俵についてしまっている。

えいや、と勇気を振り絞ってひたすらに匙を回転させ、残りの白米も投じればようやく土俵の真ん中に戻す。

しかし、相手の辛みの張りは強烈で、凌ぐほどに口腔の痺れが増していく。


ここで半熟卵を皮切りに、相手の下手を取り、一気呵成にがぶり進む。

一点の曇りを起点とした攻めは、無敗の王者に土をつけ、五臓六腑が歓声に沸く。

口内に舞った黄金のソーダは地を均し、茶の弓取りが嘆息を促す。


横綱の四股は地鎮とも言うが、食卓の横綱たるカレーもまたこの地を均すのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ファストフードをまったり食す 鶴崎 和明(つるさき かずあき) @Kazuaki_Tsuru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ