【9-26】帰省 ④ 蝉の声
【第9章 登場人物】
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凶弾は、少女の背中を貫いていた。
下手人は分からない。
エイネが通っていた公園は、山の手に有力貴族の別荘が数多並んでいるが、東都ダンダアクからの御一家が、それらに滞在していたという。やんごとなき身分の方々は、夏季休暇を一足早く取ることなど、平気でやってのける。
エイネの看病を優先しなければならないこともあり、キイルタも犯人特定にはいたっていなかった。
特定したところで、上級貴族相手に下級貴族ができることなどない。事件の処理にあたった治安維持隊は、早々に捜査を切り上げている。
司法の場に訴えたところで、訴訟にすらならないだろう。犠牲になったのは、大半が貧民層の者である。彼らの命など、家畜以下の値打ちしかないのだ。
キイルタの父・ロナンも、領内における銃乱射事件の捜査について、後味が悪いまま見切りをつけていた。
――またかッ!!
幼馴染の少女から事情を聞いたセラは、紅毛が天を
この兄妹は、上級貴族の横暴によって資産や地位はおろか父親まで失い、幼少期より
彼は怒りのままにサーベルを引っ掴むと、そのまま家を出ようとしたが、キイルタがそれを押しとどめようとする。
「どこに行こうというの!?まさか別荘の貴族たちを、その細いサーベルで1軒1軒、斬ってまわるつもり!?」
それでも、旧友を押しのけて進もうとするセラの背中に、妹から弱々しい声がかかった。
「あにさま、だめです……」
エイネは苦痛にゆがむ口元に力を込め、笑みすら浮かべていた。
あの時と同じだった。
妹の絵を台無しにした貴族のどら息子に、拳を振り上げ続けたあの時と。
【9-2】向日葵 下
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あの時と同じになるだろう。
【9-4】ハイエナ 2
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妹とともに、どぶ川の畔で途方に暮れたあの時と――。
【9-7】舟出 上
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セラは、サーベルを腰からはずすと、乱暴に床へ叩きつけた。
蝉の鳴き声は、衰えを知らない。
この夏場の昆虫は、帝国本土では南部を除き生息していない。蝉の音は、東岸領に帰省したのだという実感を、セラに遅ればせながらもたらした。
エイネは、食事を口にする体力も戻らず、日に日に衰弱していった。
キイルタの父の
もちろん、ロナンは東都における病院にも当たり尽くしたが、ブリクリウ派閥の目をかいくぐってまで、往診に応じる医者などいなかったのである。
薬も設備も不十分だった。傷口は
士官学校には、休学願を出した。
公園における貴族子弟による銃乱射事件について、看病の合間を縫うようにして、セラは1人聞き込みを続けていった。
この夏は、例年以上の暑さに見舞われている。
流れる汗を拭うことなく、セラは黙々と歩き続けた。
蝉の合唱が脳内にこだまし、思わず
そして、紅毛の少年は、マグノマン家の別荘前にたどり着いていた。
聞き込みの結果、この家は、平民だった初代当主が紙巻で財を成し、家名ごと買い取ったらしい。
そして、2カ月ほど前、齢三十も後半になろうとする2代目が、昼間から飲んだ勢いで、仲間たちとゲームを始めたようだ。
人を狙う……狂った射的ゲームを。
セラは、
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
エイネの症状回復を祈ってくださる方、
サーベルを持った少年セラが、何をするつもりか心配な方、
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セラとエイネが乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢
【予 告】
次回、「2つの決意」お楽しみに。
キイルタは、セラの帰宅を待っていた。
少女は、ここ数日考え抜いた末の2つの決意を、少年に打ち明けようとしている。
――エイネちゃんを帝都の病院に連れて行こう。
症状はいよいよ芳しくない。帝国本土の大病院に移さねば、間違いなく最悪の結果が待ち受けているだろう。
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