【9-4】ハイエナ 2

【第9章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700429200791009

【世界地図】航跡の舞台

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927860607993226

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 ブリクリウ派による各種組合への圧力は、レイス家にも直撃した。


 結果、ゲラルドは職業に就けなくなり、河川護岸工事や街道の石畳修繕など、日雇い労働への従事を余儀なくされていった。

 

 彼は体が弱く、肉体労働を連日こなすことができなかった。それでも子どもたちを食わすため、父親として必死に働いた。



 レイス家が暮らす東都郊外の貸家に、荒くれ者たちが踏み込んできたのは、そうした日々のさなかのことであった。


 彼らは、かつて帝都の屋敷に尋ねて来た男たちよりも、はるかに身なりが冴えず、言葉遣いも粗暴であった。


 ブリクリウ様の靴をめろ。さすれば俺らの子分として捨扶持すてぶちをくれてやる――彼らの下品で卑しい高笑いを前にしても、父ゲラルドは、首を縦に振ることはなかった。


 名門レイス家の当主かつ品行方正なゲラルドを組み伏せることは、ブリクリウ派閥にとってまだ宣伝効果があるようだった。




 幼い兄妹を抱えるゲラルドは、仕事を選んでなどいられなかった。


 イーストコノート大陸に大きな戦争が起こると、彼は貸家に長期間帰ってこなくなった。


 給金目当てに兵卒として従軍するわけではない。彼は武官ではないし、レイス家当主という素性が判明すれば、これまでの数多職場と同じ末路に至るだろう。下手をすれば、背後から撃たれかねない。



 彼は、何日もかけて戦場跡まで歩き、そこに転がる無数の遺体から、刀剣や小銃をはぎ取り、武器屋に売ったのである。


 そうした行為は「ハイエナ業」と呼ばれ、さげすまれた。南の大陸・イフリキアに生息し、死肉を喰らう動物の名前が由来である。


 貴族たちから厭忌えんきされる行為であったが、非常に大きな稼ぎとなった。


 ハイエナ業から帰った父は、パンや一番水を買ってきてくれることから、紅髪の兄妹は父不在の長い間、寂しさと不安、それにひもじさをじっと我慢するのであった。




 没落貴族たちに対するブリクリウ家の締め付けはますます強まり、レイス家はいよいよ貧窮した。


「……パンを売ってもらえませんでした」


 セラはパン屋を3軒はしごしたが、その特徴的な紅髪からレイス家の人間だと分かると、どの店からも摘まみ出されたのであった。


 ブリクリウ派の陰湿さには、磨きがかかってきた。


 同派閥に歯向かった末に没落・出奔した貴族たちの写真や人相書きが、商店組合に出回り始めたのである。


 そこには、物を売ることはおろか、与えることすら禁じると記載されていた。


 ブリクリウ一派との関わり合いなどご免被めんこうむりたい――どの店の主人も、そのに従った。



 不首尾ふしゅびのまま帰宅した息子に、ごくろうだったと、父は優しく告げるだけだった。


 その日の夕食は、ジャガイモをふかしただけのものとなったが、エイネは喜んでそれを口にした。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


少年セラに、パンを買い与えたいと思われた方、ぜひこちらからフォロー🔖や⭐️評価をお願いいたします

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レイス一家の乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「ハイエナ 3」お楽しみに。


トラフ家は、代々レイス家を輔弼ほひつしてきたが、ゲラルドの機転により、今回の騒動にともなう連座からは免れていた。


ロナンとその幼娘・キイルタは、ゲラルドの温情を終生忘れまいと、人知れず涙した。


毎晩同じメニューであることを詫びる兄に、妹は口いっぱいに頬張ほおばって応えた。

「ううん、あたしおイモだいすき」

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