【9-3】ハイエナ 1

【第9章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700429200791009

【世界地図】航跡の舞台

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927860607993226

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 大海を東に渡っても、レイス一家に安寧の日々は訪れなかった。


 間の悪いことに、東都ダンダアクをはじめとする東岸領は、内務省第1課長――オーラム家嫡男・アルイルを擁するターン=ブリクリウ――が、水面下で勢力を拡大しているさなかであった。


 旧家ばかりの帝国本土に比べて、東岸領はしがらみが少ないうえ、オーラム家との衝突が絶えない帝室第八皇子や、それに与する貴族たちの所領が多かった。


 さらに、ヴァナヘイムやヘールタラ(後のブレギア)などの国々と地続きになっている。


 これら所領拡張可能な将来性に、細身狐面の男は目を付けたのであった。


 ネムグラン=オーラム帝国陸軍参謀次長は、第八皇子との抗争において、彼を支持する者たちの領土をかすめ取る算段をしていた。


 そして、抗争にケリをつけたあかつきには、第八皇子の本拠地ヘールタラをはじめ、近隣諸国の併呑へいどんまで企図しているらしい。


 その際には、帝国東岸領に出師すいしの旗が掲げられることであろう。




 東都の北方にあるレイス家旧領には、ブリクリウの息がかかった貴族・リーアム=ブレゴン中佐の管轄下となっており、現地にはその臣下が赴任していた。


 この地を統治してきたレイス家の一族は、行方知れずとなっていた。


 東都銀行に預けていたレイス家の資産は、すべて国家――を牛耳るネムグラン家――によって差し押さえられていた。


 やむなく、ゲラルドはダンダアクの郊外に戻り、そこで貸家を確保したのであった。



 帝都に続き、この東都でも全資産を失った以上、生活していくためには、糧を得ねばならない。


 ゲラルドは、算術や識字の能力を生かし、東都郊外の小さな私学校で教職を得たが、長くは続かなかった。


 ある日の夕方、学長室に呼び出された彼は、突然の解雇を申し渡されたのである。


「クビ……ですか」


「せっかく仕事も覚えてくれたうえに、子どもたちも慣れてきたというのに……申し訳ない」

 学長は薄くなった頭をゲラルドに向けて下げるばかりだった。


 職務上で落ち度があったのか、生徒の親御から苦情があったのか。


 免職に至った事情について尋ねても、学長は頭を振るばかりであった。

「詳しくは言えないが……察してくれ」


「……そういうことであれば」

 学長の物言いから、解雇の理由は、「レイス家の人間だから」なのだと、ゲラルドは悟った。


「すまん……」


「いえ、こちらこそ、ご迷惑をおかけしました」



 その後、ゲラルドは出版や新聞、それに建築と、ダンダアク都市下あちこちに職を求め歩いたが、結末は同じであった。


 どの業界においても、レイス家の当主だと気が付かれた途端、解雇されたのである。しまいには、採用にすら至らなくなった。


 軍政・軍令両面で頭角を現し、帝国内の権力を握りつつあったネムグラン=オーラムは、地位こそ中将だが、いまやその権勢の前には、飛ぶ鳥も落ちるほどであった。


 そして、内務省第1課長・ターン=ブリクリウは、そのネムグランの一人息子・アルイルの傅役もりやくである。


 嫡子の粗暴な性格の矯正を諦めた狐面の傅役は、その分自らの権力固めに心血を注いでいた。己の派閥に対立する存在には、帝国中将閣下の名のもとに容赦しなかった。



 狐のやり方は陰湿を極めた。


 貴族たちから地位と所領を奪っただけでは飽き足らず、それらが事業を起こさぬよう、かつ職に就かぬよう、街の職業組合という組合に、圧力をかけたのである。


 ブリクリウ派は、言葉だけではなかった。


 政争に敗れ、田畑で出直そうとする貴族は少なくない。


 東岸領下の農業組合は「政争を畑に持ち込むな」と、彼らを保護していた。


 その事務所が、ある日灰燼かいじんに帰したのである。


 兵馬を差し向けたのは、ブリクリウ傘下の下級貴族であった。


 それからは、農業・教育・出版・建築……職業を問わず、どの組合も狐ににらまれることを極端に恐れるようになっていった。


 政争に敗れた元貴族などに関わっていたら、会社どころか組合ごと潰されかねないのだ。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


ブリクリウ一派のやり口は汚いな、と思われた方、ぜひこちらからフォロー🔖や⭐️評価をお願いいたします

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レイス一家の乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「ハイエナ 2」お楽しみに。


「……パンを売ってもらえませんでした」


セラはパン屋を3軒はしごしたが、その特徴的な紅髪からレイス家の人間だと分かると、どの店からも摘まみ出されたのであった。

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