【9-5】ハイエナ 3
【第9章 登場人物】
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700429200791009
【世界地図】航跡の舞台
https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927860607993226
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レイス一家は、食糧の確保にも難儀する有様となった。
東岸領におけるトラフ家が、ひそかに援助の手を差し伸べることで、かろうじて食いつなぐことができたのだった。
トラフ家は、代々レイス家を
同家当主・ロナンは、「エティブ派かブリクリウ派か――従属先をめぐって、トラフ家はレイス家と仲違いし、絶縁の関係になった」という体裁を泣く泣く演じたのである。
ターン=ブリクリウは、そうした三文芝居などお見通しだったものの、ロナン=トラフを自らの陣営に迎え入れることにした。
「レイス家と蜜月だったトラフ家すら味方につけた」という既成事実――それを得ることで、よしとしたようだった。
ロナンとその幼娘キイルタは、ゲラルドの温情を終生忘れまいと、人知れず涙した。
ゲラルドの収入は不安定であった。
ネムグラン=オーラムによる覇権が行きわたりつつある帝国東岸領において、大きな戦闘は次第に行われなくなっていった。
そうなると、ハイエナ業も期待できなっていく。とある小さな戦場跡では、死体1つに20人のハイエナが群がる事態となっていた。
こうなると、頑健でないゲラルドなどでは同業者に競り負け、上がりを手にすることは出来なかった。
東都・ダンダアク郊外の貸家では、家賃滞納が続くようになったレイス一家に対し、大家は立ち退きを申し渡した。大家としても厄介払いできるタイミングを見計らっていたようだった。
やむなく、一家は引っ越し先を求めたが、レイス家というだけで、戸建て集合住宅問わず、どの貸家も受け入れを拒否した。
この日、日雇い労働から帰宅したゲラルドは、体調がすぐれず、奥の寝室で横になっていた。
食卓には、今日もセラがふかしたジャガイモが並んだ。
木箱の芋は、あちこちに芽が生えてしまっていた。帝都にいた頃、厨房の使用人から「ジャガイモは新芽に毒を持つ」と教えられていたため、少年は慣れない手つきでそれらを取り除いたのだった。
毎晩同じメニューであることを詫びる兄に、妹は口いっぱいに
「ううん、あたしおイモだいすき」
芋が熱かったのだろう。エイネは息を大きく吸っては吐いている。
申し訳なさと愛おしさが同居した苦笑をかみ殺し、セラも食卓に盛られた芋の山から1つを手元の皿に置いた。
フォークを手に取って食事を始めようとした兄に、ふいに妹が質問を投げかけてきた。
「……ととさまは、わるいことをなさったの?」
その言葉に、芋を
妹は、子どもならではの
「それは……」
セラは言葉を詰まらせた。
だが、少女の虚勢は、長くは続かなかった。
聞いてはいけないことを口にしてしまった――それを恥じるように、彼女の
セラはフォークを置くと、
「父上は、決して悪いことをしたわけではない」
悪いのは、ブリクリウ家とそれに尻尾を振るう大人たちだ。僕たちはレイス家の人間として、堂々としていればいいんだ。
「……はい。あにさま」
エイネは鼻声を震わせて、芋にかぶりついた。
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
主家が犠牲になっても、従家を生かそうとしたゲラルドの配慮に感心された方、
エイネにジャガイモ以外のものを食べさせてあげて、と思われた方、
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レイス一家の乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢
【予 告】
次回、「ハイエナ 4」お楽しみに。
父の発するいびきとも
少年は、先日まで住んでいたダンダアク郊外の街に走り、医者を探し求めた。
――お願いです。
――父が危篤なのです。
――助けてください。
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