【14-22】武装放棄 1

【第14章 登場人物】

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【地図】ヴァナヘイム国 (13章修正)

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330651819936625

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「帝国軍、撤退していきまぁすッ」


「何度でも来やがれ!」


「また追い払ってやるからなッ」


「うちの総司令官閣下は、天下無敵だ!」


 帝国暦384年1月15日、寒風にたなびく戦旗「咆哮狼」の下、特務兵たちが腕を振り上げて叫んでいた。


「……」

 アルベルト=ミーミルが双眼鏡を眼に当てると、遠く帝国軍が後退していく様子が映る。


 ヴァナヘイム軍は、ミュルクヴィズ・ストレンドにおいて散々に撃ち減らされ、このケルムト渓谷に逃げ戻った。


 城塞も街も捨てての敗走に、兵卒のみならず下士官もイエロヴェリル平原に逃げ散った。その後の新兵補充も、脱走が相次ぎはかどっていない。


【14-12】虎穴へ 1

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 ところが、そうした状況下でも、ミーミルは機をつかむや渓谷から打って出ているのである。驚いたことに、局地戦ながら帝国軍を撃退することもしばしばであった。


 平原の大半を失ったものの、こと渓谷周辺での戦いでは、ミーミルは帝国軍を一切寄せ付けなかった。


【14-14】虎穴へ 3

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 後始末を終え、副司令官・スカルド=ローズル以下は、意気揚々として(総司令官のみ泰然として)渓谷内の総司令部に戻った。


 そこへ通信兵が慌ただしく駆け寄って来る。

「お、王都からこのような通信が……」


 ミーミルは、差し出された紙きれを受け取った。通信兵の手は震えていたが、それには気が付かないふりをして、急ぎその紙片に目を通す。


 そこには、トンツーの暗号から起こされた文字が、わずかに並んでいた。












『ただちに戦闘行為を停止し、武装を解除せよ』




 ヴァナヘイム軍総司令部――谷底にある狭い天幕では、電報の復号紙を囲んで、幕僚たちが激論を交わしていた。


 ノーアトゥーンは砲火にさらされた結果、ヴァ国・審議会は国王裁可の下、帝国軍への降伏を受諾することにしたらしい。


 それに伴い、このケルムト渓谷に拠る者たちにも、武装放棄の命令が通達されたわけである。


 詳細は、追って使者を遣わすと、結ばれていた。



「王都のヤツらは、いったい何を言ってきているんだッ!?」


「ノーアトゥーンの城壁まで、帝国軍が大挙して押し寄せたそうだ」


 要領を得ない部下の参謀たちに対し、苛立ちを隠し得ない参謀長・シャツィ=フルングニルを、副司令官・ローズルがたしなめる。しかし、その口調も穏やかさとは程遠い。


「そんなはずはありません!帝国軍は、この地で抑えているはずですッ」


「それでは、西の塔が崩落する幻覚を見たとでも言うのか!?王都の間抜けどもも、そこまで臆病ではあるまいッ」


【14-16】安逸 1

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 帝国軍との局地戦に勝利し、気分が高揚していることもあるのだろう。副司令官以下、幕僚たちが憤激するなか、総司令官はゆっくりとかぶりを振った。



「……我が軍は先の戦闘で、オーズ将軍をはじめ多くの将兵を失った。さらに、新兵たちの士気は振るわず、脱走が絶えない」


 そのため、以前のような防衛線は築けていない。手薄になった区域を突破されたのであろう。


 幕僚たちの怒気を鎮めるように、ミーミルはんで含めるような物言いで、諭していった。





【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


突然の停戦命令に驚かれた方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758


ミーミルたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「武装放棄 2」お楽しみに。


「冗談じゃない!俺たちは帝国軍をすべて撃退してきた」

「そうだッ。俺たちは勝っていた」

「ミーミル将軍は負けていない。負けたのは王都の臆病者どもだッ」


ヴァ軍・特務兵――かつての失業者や囚人――たちは、紛糾していた。小銃やサーベルを捨て、また道端や収容所に戻れというのか、と。

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