【14-14】虎穴へ 3

【第14章 登場人物】

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【地図】ヴァナヘイム国 (13章修正)

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330651819936625

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 渓谷東端の先において、ネフタン麾下は「狼の戦旗」翻るヴァナヘイム軍に挑み、なす術もなく敗れ去ったという。


「少将は、師団規模であったはずだぞッ」

 部屋を飛び出しかけたアシイン=ゴウラ少尉は、勢いのやり場にきゅうし、伝令官の両肩をつかんでしまっている。嘘だと言ってくれと訴えんばかりに。


 2万近い軍勢が簡単に打ち破られたわけである。ヴァナヘイム軍はその3倍近い兵を動員したのだろう。


「渓谷に守りを残しながら、それだけの兵を割くことができようとは」

 谷底には、敵の戦力が10万近く存在するということだろう。まだまだあなどれませんな――アレン=カムハル少尉が前髪を掻き上げながらうなる。


「いや、こいつは明らかに擬兵ぎへいの計……」

 カムハルの推測値に、セラ=レイス中佐は人差し指を振りつつ、新たな読み筋を展開する。


 脱走が相次ぐなど、ヴァナヘイム軍の新兵補充は上手くいっていない。それでいながら、ネフタン旅団を一蹴したことは、何を意味しているのか――。


【14-12】虎穴へ 1

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700428264765101



 おそらく、敵の司令官・アルベルト=ミーミルは、谷底のほぼ全戦力をもって打って出たのだろう。



「なッ……ぜ、全軍……!?」

 上官のあまりにも大胆かつ、正鵠せいこくを得ているだろう推測に、脇に控えるソル=ムンディル参謀見習いは、水色の瞳を大きく見開く。


 だが、レイスは、力なく紅い頭を振っている――なんと間の抜けた話か、と。


 敵指揮官は、谷底を総ざらいして、ネフタン少将麾下を一蹴していたのである。その間、帝国軍は空っぽのケルムト渓谷をと眺めていたことになる。


 次々と実情を看破しながらも、レイスがいつものドヤ顔――自信と愛嬌をないまぜた笑み――を決めない理由は、そうした事情であった。


 帝国軍は内輪揉めを梃子てこのように利用されたうえに、完全に裏をかかれたわけである。



「負けだ。またしてもやっこさんにやられた」

 レイスは、紅色の髪を力強くかきむしった。





【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


ミーミルの大胆不敵な戦術に驚かれた方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758


レイスたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「虎穴へ 4」お楽しみに。


よし、と一つ息を吐くと、紅毛の先任参謀は口を開いた。

「騎兵砲を中心に2,000の部隊を組む」


「何をなさるおつもりで」

ゴウラやレクレナたちが複雑な表情を浮かべたときには、レイスのあおい両目が、きらきらと輝いていた。

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