【14-13】虎穴へ 2

【第14章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816927859156113930

【地図】ヴァナヘイム国 (13章修正)

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330651819936625

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 この期に及んでも、ヴァナヘイム軍総司令官・アルベルト=ミーミル大将は、ケルムト渓谷から打って出ることをやめようとしない。


 谷底の守りを固めるにも兵力がおぼつかないはずなのに、間道をつたって果敢にも飛び出してくるのだ。


 そして、見定めた帝国軍の脆弱ポイントを崩しては、速やかに元来た道を引き揚げていく。


 おまけに、彼等は進路・退路ともに毎回変えてきており、帝国軍に抜け道の全容をつかませていない。熟練の帝国斥候兵に追尾されても、必ず始末してしまう。



 渓谷の東端の先にある村落で、ヴァナヘイム軍の襲撃部隊が発見されたのは、そのような折のことであった。


 原則、帝国軍において局地戦の采配は、左・右・中央、各指揮所に委ねられている。だが、夏場から年末にかけて相次ぐ敗戦により、右翼・中央は少なくない損害を被っており、自然、左翼が請負う戦域、決断が両者をしのぐようになっていた。


 そこで、左翼統括指揮所は、ロイ=ネフタン少将麾下の一隊を差し向けたのだという。友軍の仇を討とうと、少将は勇んで出立したのだそうだ。



 それらの情報がフレヤ城塞の帝国軍参謀部にもたされたのは、ネフタン隊が出立してから3日後のことであった。


「馬鹿な、誰がそのような作戦を立てた」

 先任参謀・セラ=レイス中佐は、苛立ちを隠さずに、副長に問いただす。


「左翼第1軍司令・ブレゴン中将が御許可を出されたとか」

 副長・キイルタ=トラフ中尉は、事実だけを静かに返答した。


 リーアム=ブレゴン中将は、敵のヒットアンドアウェイ作戦にしびれを切らしたのだろう。


 何より、右翼・エイグン=ビレー中将の縄張りをやくす狙いもあるに違いない。


 東都・ダンダアクから次々と送り込まれてくる豊富な兵馬・武器・弾薬をもって、昨年7月の右翼惨敗から、ようやくビレー麾下各隊は陣容を立て直しつつある。


 その様は、日照り続きの田畑に慈雨が降り注ぐかのようだった。右翼での主導権を握りかけていたブレゴンとしては、焦りを感じていたことだろう。


帝国東征軍 組織図(略図③)

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16817330653606087372



 しかし、先任参謀のレイスは言い捨てる。ケルムト渓谷の東端に顔を出したヴァナヘイム軍を叩くに、左翼からの戦力投入は無理筋むりすじだと。


 ネフタン麾下が大きく迂回する間に、ヴァ軍はその動きを捕捉するはずだ。


 ヴァ軍は、勝算がなければ谷底に引っ込むだけだろうし、十分に準備を整えられれば、戦端を開くことだろう。


 戦場到着までに足並みが乱れたネフタン麾下では、前者の場合、息が上がり追撃を断念せざるをえないだろうし、後者の場合――。


「すぐに、ネフタン隊へ向けて、引き揚げるよう伝騎を出します」

 上官の読み筋を嫌がるように、参謀・アシイン=ゴウラが巨体をひるがえす。


 部下の申し出に、先任参謀は反対を口にはしなかった。ただ、あおい目を細めて口ずさむ。

「相手はやっこさんだ……おそらくは」


「とにかく、急がせます――ッ!?」


 背を向けたゴウラの進路に立ちふさがるようにして、伝令官が参謀部の部屋の入口に立っていた。


「申し上げます!」

 至急電を受信――ネフタン少将麾下ヴァ軍と交戦、甚大な損害を被った模様!



 室内の飾緒を下げた若者たちが総立ちになる。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


先を読めながらも、自軍を動かすことがままならないレイスにヤキモキさせられた方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758


レイスたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「虎穴へ 3」お楽しみに。


「少将は、師団規模であったはずだぞッ」

部屋を飛び出そうとしたゴウラは、勢いのやり場にきゅうし、伝令官の両肩をつかんでしまっている。嘘だと言ってくれと訴えんばかりに。

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